2025.12.09 NEW
12月FOMCでの追加利下げ実施に野村予想を変更 パウエル体制下で最後の利下げとみる 米国野村證券・雨宮愛知
撮影/タナカヨシトモ(人物)
2025年12月9~10日(現地時間)にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されます。今回、0.25ポイントの利下げを見込む予想に野村の見通しを改定し、パウエル議長の任期中では最後の利下げになると考えています。米国野村證券シニア・エコノミストの雨宮愛知が解説します。

野村の金融政策見通しを改定
FRB(米連邦準備理事会)は12月に利下げするとみる方向に、野村予想を改定します(従来予想は据え置き)。この利下げはパウエル議長の下では最後となる可能性が高く、堅調な成長とインフレの加速を背景に、FOMCはその後しばらく政策金利を据え置くと予想しています。2026年は、新議長の下で6月と9月のFOMCで四半期ごとに2回の利下げを見込んでいます。FF(フェデラルファンド)金利の中央値が3.125%で利下げが終了するとの見方は変わりません。
(出所)FRB、ブルームバーグより米国野村證券作成
12月の政策決定は、依然として利下げか据え置きかの判断が微妙で、FOMC内では利下げを支持する参加者と据え置きを望む参加者が半々に分かれているとみています。今回のFOMCでは、パウエル議長と数人の中道派メンバーが結果を左右する「浮動票」になる可能性が高いものの、彼らは今後の決定について明確なスタンスを示していません。
これまでのところ、パウエル議長から12月の利下げの可能性に対する明確な反対はなく、12月の追加利下げを支持する可能性が高まっているとみています。野村の見立てでは、前回10月のFOMC会合以降の経済データは堅調ですが、FRBの中道派にとって「リスク管理」目的の追加利下げを正当化するのに十分ハト派的(金融緩和に前向き)なシグナルが出ていると判断しています。
経済指標はFOMC指導部にとって十分にハト派的か
野村の見立てでは、特に10月のFOMC後の記者会見におけるパウエル議長のタカ派的(金融緩和に消極的)な発言を踏まえると、最近のデータは追加利下げを正当化するものではありません。しかし、FOMC参加者が野村と同じ見解を共有しているとは確信していません。
10月の会合以降の雇用データはノイズ(統計上のゆがみ)が多く、ポジティブなサプライズとネガティブなサプライズが混在しています。9月の非農業部門雇用者数は伸びが加速した一方、失業率は4.4%と2021年11月以降の最高値を更新しました。11月のADP民間雇用者数は前月比で3.2万人の減少となり、地区別のサービス業景気調査や11月の地区連銀経済報告(ベージュブック)も雇用の伸び鈍化を示しました。対照的に、失業保険新規申請件数および継続受給者数はここ数週間で急減し、最新統計では新規申請件数が19.1万人と数年ぶりの低水準となっています。
(出所)ブルームバーグより米国野村證券作成
10月のFOMC会合後の記者会見で、パウエル議長は9月と10月の「予防的」利下げと12月の利下げのケースを区別し、後者には労働統計の実際の悪化の兆候が必要だと指摘しました。
野村の見立てでは、労働市場は依然として底堅さを保っているようです。重要なのは、レイオフ(解雇・非自発的離職)と雇用損失に関する指標が引き続き低水準であり、雇用の伸びのトレンドの弱さは労働市場のストレス(大規模なレイオフ)の兆候ではなく、穏やかな減速を示唆している可能性が高いことです。
(出所)米労働省、ヘイバー・アナリティクスより米国野村證券作成
しかし、FOMCの投票メンバーのうち、パウエル議長をはじめとする中道派は、雇用統計の最もネガティブな側面を重視する傾向があります。例えば、2024年の予防的利下げの実施時には、失業率が一定以上に上昇すると景気後退入りの可能性が高まるとする「サーム・ルール」が利下げの根拠とされました。
最近の利下げでは、労働者の供給と需要の双方が著しく減速していることから生じる、通常とは異なる「奇妙な均衡」状態にあり、雇用の下振れリスクが高まっているとのパウエル議長の懸念が背景にあります。この文脈では、ADPやベージュブックが示唆する最近のネガティブな雇用シグナルは、非農業部門雇用者数や失業保険申請数のポジティブなサプライズよりも重視される可能性があります。
FOMC参加者の意見は分裂か
利下げの決定に対して、4人のタカ派の反対意見(据え置き支持)を見込んでいます。また、ミラン理事は0.50%ポイントの利下げを支持し、ハト派の反対意見を示すと予想します。
基本シナリオでは、輪番制で投票する4人の地区連銀総裁(カンザスシティ連銀のシュミッド総裁、セントルイス連銀のムサレム総裁、シカゴ連銀のグールスビー総裁、ボストン連銀のコリンズ総裁)が反対票を投じるとみています。バー理事は講演では追加利下げに反対しましたが、FOMCでは利下げに賛成票を投じると予想します(バー理事が据え置き支持に回る場合、0.25%ポイントの利下げ支持が過半数となるよう、ミラン理事は0.25%ポイントの利下げ支持に回ると見込んでいます)。
FOMC参加者の政策金利見通し(ドットチャート)は、さらに多くの「暗黙の反対」を示唆する可能性が高く、8~9人の参加者が2025年末のFF金利の中央値として3.875%を示す可能性が高いとみています(12月のFOMC会合で据え置きを望む立場を反映します)。
FOMC参加者の経済・金利見通しが大きく変化する可能性は低い
10月から11月上旬にかけて連邦政府機関が一部閉鎖されていたため、前回9月のFOMC(参加者見通し)以降に公表された主要データは比較的少ない状況でした。このため、FOMCの経済見通しの中央値は小幅な修正にとどまる見込みです。
FOMC参加者の2025~2028年の政策金利見通しは、2026年と2027年にそれぞれ1回の利下げを見込み、FF金利の中央値は最終的に3.125%となる見通しです。
FOMCの政策声明では、準備金管理目的の資産購入が近いうちに適切になると示唆する可能性が高いとみています。2026年1月27~28日のFOMCで、月間150億ドルの財務省短期証券(TB)の購入が発表され、2月から実施されると予想しています。
- 米国野村證券 シニア・エコノミスト
雨宮 愛知 - 2001年野村総合研究所入社。2004年より野村證券金融経済研究所経済調査部。2009年より米国野村證券(ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル)に勤務。
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