2025.11.28 NEW
米国政策金利12月の行方 FOMC参加者の意見は割れている 米国野村證券・雨宮愛知
撮影/タナカヨシトモ(人物)
過去最長となった米国の政府封鎖の間、雇用統計など重要な指標が出てこない状態が続きました。11月20日(米国時間)に9月の雇用統計が遅れて発表された際には、非農業部門雇用者数の伸びが予想を上回ったことから12月の米国政策金利の引き下げ期待が後退し、株価が下落する場面もありました。しかし、その後は11月21日には米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が近々利下げされるという発言をし、利下げ期待が急速に高まり株価は反発しました。米国の各種統計や金利の動向をどのようにみているか、米国野村證券シニア・エコノミストの雨宮愛知が解説します。

FOMC参加者の意見は割れている
- 米国の政策金利の行方を巡って、市場が右往左往している状況です。遅れて出てきた雇用統計などを踏まえ、米国経済状況をどのように見ていますか。
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9月の非農業部門雇用者数は前月比+11.9万人と伸びが加速し、予想を上回りました。雇用者数は堅調に増加したが、失業率の予想外の上昇によって相殺されるというまちまちな結果でした。米国野村證券の見方としては、失業率の上昇は他の比較的堅調な雇用関連指標とは連動しておらず、労働市場がレイオフの増加により急速に悪化している証拠ではないと考えます。
(出所)米労働省、ヘイバー・アナリティクス、米国野村證券
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ただし、米国政府封鎖が解かれた後政府から出てきている統計はほぼ9月のものであり、こうしたデータが何か金融政策の決定にインパクトを与えているということはないと思います。すでにADP民間雇用者数などの民間のデータでは10月以降のデータが出ており、9月分の政府統計がもたらす影響は大きくありません。いまのFOMCのメンバーは、過去のデータをもとに金融政策を考えているというよりは、今後どうなるかという見通しやリスクシナリオの確率に基づいて、「利下げをするべき」あるいは「利下げをいそがないほうがいい」と主張しており、FOMCメンバーはその二つの意見の間で割れているという状態です。今後、11月の雇用統計や消費者物価指数(CPI)といった重要な指標がリアルタイムで出てくるタイミングは12月のFOMCの後です。タカ派の人はタカ派、ハト派の人はハト派というだけで、データは何も示唆してくれないという諦めがマーケットにもあるわけです。
だからマーケットはどちらのメッセージが強いのかを読み取ろうとして、いつも以上にFOMC参加者の発言で株価が乱高下しています。
しかしこれまでに出ている民間のさまざまな統計からも、労働市場にはそれほど変化が起きていないということがわかっています。米国野村證券としては、米国景気は堅調であり12月のFOMCでは利下げが見送られるであろうという予想を維持していますが、あくまでもこれは「ハト派的政策据え置き」の予想です。12月に利下げが見送られた場合は1月以降に再び利下げを行う可能性をパウエル議長は示唆するのではないかと考えています。これにより、ハト派、タカ派双方に配慮することができると考えています。
連続的に利下げが行われる状況とはいえない
- そのなかでも、21日、NY連銀のウィリアムズ総裁による発言で、急速に利下げ期待が高まった理由はなんでしょうか。
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ウィリアムズ総裁は、これまで政策金利についてはっきりとした意見を表明しないと思われていました。それが、利下げに前向きなハト派的発言をしたということで影響が大きかったと思われます。
しかし、ウィリアムズ総裁は次の利下げの時期について“in the near term”という言葉を使いました。近々利下げをすることが望ましいという意味なのですが、FRBが時間軸を表すのに使う言葉としては珍しいです。relatively soon(比較的早い時期)やnext meeting (次の会合)と表現されることが多いのに対し、ある程度幅をもって表現されました。
つまり、12月は利下げをスキップして1月に実施するなどもありうると解釈できると思います。
ウィリアムズ総裁の発言の後に、週末にウォールストリートジャーナルのFRB番記者は「パウエル議長はまだ態度を決めていないのではないか」という記事を書いていました。私も、ウィリアムズ総裁がかつてのNY連銀総裁のようにFRB議長に近い意見を持っているかというとそうでもなく、個人の意見を言っただけではないかという見方をしています。また、ウォラー理事は先週、「FOMCは相当割れている」という言い方をしています。投票権を持つ12人のうち、7:5など割れるということもあるだろうという意見です。
今週土曜からはFOMCメンバーが金融政策について発言ができないブラックアウト期間に入ります。この期間に(パウエル議長からの)リークに基づく観測記事がウォールストリートジャーナルなどから出れば、株価が大きく動くということもあるでしょう。
米国野村證券としては、12月は据え置き、1月以降に再び利下げが行われるという見方をしていますが、12月に利下げが行われることも当然考えられると思います。重要なポイントは12月に利下げをしなかったら、1月以降の利下げを強くにおわせる可能性が高いということです。なぜなら10月のFOMC議事録をみると、ほとんどの参加者が長期的には利下げを行うことに賛成しているとあります。連続的にどんどん利下げして景気やインフレを刺激しすぎるリスクに配慮した慎重派と、まだまだ景気には弱さがあるので、連続利下げを継続すべきだというハト派の対立があり、パウエル議長はどちらにも配慮する必要があります。
- 長期投資を前提とした個人投資家にとっては、12月に利下げが行われなくて株価が一時的に下がったとしても、1月以降には利下げされるだろうと思っておいたほうがいいということですね。
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そうですね。1-3月期まで視野に入れれば、マーケットの利下げの確率はあまり動いていない、どちらにせよ利下げはゆっくり進むという認識のもとで、株価の乱高下に惑わされずに投資を継続するのがいいと思います。
利下げの時期より重要なのは次期FRB議長人事
- 個人投資家が気にするべきことはなんでしょうか。
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個人投資家にとってはいつ利下げなのかということよりも、来年のFRB議長の人事のほうが重要です。トランプ大統領の考えのもと、景気が良くてもインフレをおそれずにどんどん利下げをするような考え方になるのかどうか。
26日に次期FRB議長として、ハセット国家経済会議(NEC)委員長が有力視されているという報道が出ました。ハセット氏は、FRBに利下げを求めるトランプ大統領の意向をくむとみられ、株価がさらに上昇しました。ハセット氏がもしFRB議長になるとしたら、過去3回の議長が現職のFRB理事から内部昇格したのに対して、外部から就任するアウトサイダーの人事となります。もしそうなると、確実に利下げが進む体制になることが予想されます。FRBの人事については引き続き注目していくといいと思います。
- 米国野村證券 シニア・エコノミスト
雨宮 愛知 - 2001年野村総合研究所入社。2004年より野村證券金融経済研究所経済調査部。2009年より米国野村證券(ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル)に勤務。
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