2026.03.10 NEW
原油価格高騰でも、米国経済は影響を受けにくいと考える背景 米国野村證券・雨宮愛知
撮影/タナカヨシトモ(人物)
イラン情勢の緊迫化を受け、原油価格が乱高下しています。日本経済が原油価格の上昇に直接影響を受ける度合いについてはこちらで考察していますが、日本経済は米国経済の状況にも強く影響を受けます。米国野村證券シニア・エコノミストの雨宮愛知は、「米国経済は原油高の影響を受けにくい」と考えます。詳しく解説します。

米国経済には原油価格上昇による経済ショックに対する耐性がある
イラン戦争は経済見通しの新たな不確実性の原因となっています。足元の紛争が米国経済に影響を及ぼす主な経路は原油価格であり、過去1週間で原油価格はすでに急上昇しています。しかし、米国経済には原油価格上昇による経済ショックに対する耐性があると考えられます。その理由として、
- 個人消費に占める燃料支出(エネルギー財支出)の割合が歴史的に低水準にあること
- 原油価格とは異なり、米国内の天然ガス価格は安定が続くと想定されること
- 世界最大の産油国である米国のエネルギー生産及び関連設備投資が増加すると考えられること
の3つを挙げることができます。
AAA(全米自動車協会)によると、ガソリン小売価格はこの1週間で1ガロンあたり50セント以上上昇しており、個人消費への打撃となるでしょう。とはいえ、個人消費全体に占めるエネルギー財支出の割合は現在約2.0%と過去最低水準にあります。
(出所)米商務省、EIA(米エネルギー情報局)、ヘイバー・アナリティクスより米国野村證券作成
したがって、原油価格の上昇が個人消費に与えるショックは以前よりも小さくなる公算が大きいと考えられます。米国には十分な国内ガス供給があり、LNG(液化天然ガス)の供給途絶が米国消費者に影響を及ぼすことはありません。米国における天然ガス価格は安定しており、消費者の利用するガス料金や(天然ガスを利用して発電されている)電力価格への影響も限定的なものになると予想しています。
政策面では、現在、戦略石油備蓄として4億バレル以上の原油を保有しており、スポット価格への圧力を緩和する要因となり得ます。中間選挙年の夏までエネルギー価格の高騰が続く場合、一部の州は州税であるガソリン税の一時的な減税を検討する可能性があります。
原油価格の高騰が続く場合、米国が現在、世界最大の産油国であることを踏まえると、国内のエネルギー生産と企業投資が刺激される可能性が高いです。エネルギー価格に起因する企業投資の拡大は、少なくとも部分的には個人消費への悪影響を相殺するでしょう。
(注)エネルギー関連設備投資の内訳は、探鉱・削井、大型トラック・バス・トレーラー投資、鉱業・油田機械投資。
(出所)米商務省、 EIA(米エネルギー情報局) 、ヘイバー・アナリティクスより米国野村證券作成
原油価格のインフレへの影響
インフレへの影響という点では、野村證券のモデルによれば、原油価格が10米ドル/バレル上昇した状態が続くと、CPI(消費者物価指数)上昇率が0.2%ポイント上昇する計算です。しかし、現在の原油価格の水準がいつまで続くか確信できないため、我々はインフレ見通しを大きくは変更していません。
WTI原油先物は、最近の原油価格の上昇が長続きしない可能性が高いことを示唆しています。
(出所) EIA(米エネルギー情報局) 、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)、ヘイバー・アナリティクスより米国野村證券作成
FRB(米連邦準備理事会)は伝統的には変動の激しい食料品及びエネルギー価格の短期的な変動を無視し、それらを除いた「コア」指標でインフレ動向を判断する傾向があります。ただし、ガソリン価格の高騰をきっかけに、消費者や企業のインフレ期待が大きく押し上げられると、インフレ全体が長期に亘って高止まりするリスクが高まります。
したがって、金融政策の観点からは、インフレ期待は食料品・エネルギー価格の短期的な変動よりも重要です。消費者や企業のインフレ期待、特に長期的なインフレ期待が一次産品価格の上昇に反応して急上昇すれば、政策当局はタカ派(利下げに慎重)に傾くでしょう。もしそうなった場合は、利下げに前向きだと見られているウォーシュ氏が新FRB議長に就任しても、FRBは利下げを躊躇するかもしれません。
(出所)ミシガン大学、AAA、ヘイバー・アナリティクスより米国野村證券作成
米国成長モメンタムは引き続き強い
2月雇用統計は予想外に弱かったのですが、これは雇用トレンドの基調的な悪化というよりも、一時的要因による部分が大きいとみています。季節調整の歪み、スノーストーム、さらにヘルスケアワーカーのストライキなど一時的な要因が影響して2月の非農業部門雇用者数は大きく低下しましたが、これらの影響が剥落すれば3月の雇用統計は持ち直すと見込んでいます。また、1月の雇用統計は予想を上回る強さだったことを考慮すると、労働市場の実態は、1月と2月の雇用統計の中間にあるのではないかと考えています。
雇用統計を除くと、過去1週間で発表されたソフトデータ(サーベイ指標)とハードデータ(実体経済指標)はともに景気が引き続き底堅いことを示唆しています。変動の大きい項目(自動車販売、ガソリンスタンド、建材、外食サービス)を除いた1月のコア小売売上高は前月比+0.3%となり、過去月の実績も上方修正されました。地区連銀経済報告(ベージュブック)の経済活動に関する全体的な評価は、悪天候による逆風にもかかわらず基本的に変わらず、悪天候がなければより楽観的だったことが示唆されました。
高頻度指標は、悪天候にもかかわらず、2月の消費支出の勢いが強いことを示しています。2月の自動車販売は、メーカーの販売奨励金縮小にもかかわらず堅調を維持しました。一方、2026年に入ってからの所得税還付のスタートは鈍く、トランプ米大統領の大型減税法(OBBBA)による消費支出への後押しが反映されるのは3月からとなる可能性が高いです。これは、1-3月期の消費回復と4-6月期の消費への一定の下支えとなるでしょう。
企業景況サーベイ(聞き取り調査)も予想よりも堅調でした。ISM(全米供給管理協会)の景気調査は製造業とサービス業の双方が需要関連指標の幅広い強さを示し、企業の設備投資計画が徐々に上向くとともに、事業活動と新規受注が好調と報告しました。3月13日発表予定の1月の耐久財受注は、投資の勢いが広がっていることを示すさらなる手がかりとなるでしょう。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
- 米国野村證券 シニア・エコノミスト
雨宮 愛知 - 2001年野村総合研究所入社。2004年より野村證券金融経済研究所経済調査部。2009年より米国野村證券(ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナル)に勤務。
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