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2026.03.12 NEW

日本株の中長期見通し 安全保障の「自立」と「構造変化」が追い風に 野村CIO・宮嵜浩

日本株の中長期見通し 安全保障の「自立」と「構造変化」が追い風に 野村CIO・宮嵜浩のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

中東情勢の緊迫化による原油価格の急騰を受け、株式市場の値動きが大きくなっています。野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティングCIOマネジメント部(野村CIO)のチーフ・ストラテジストである宮嵜浩は株価下落のきっかけとなった原油価格の先行きについて「先高観は徐々に後退する」と指摘した上で、高市早苗首相の政策への期待感や日本の構造的な変化を背景に、中長期的な視点から日本株の上昇トレンドは続くとの見方を示しています。詳しく解説します。

日本株の中長期見通し 安全保障の「自立」と「構造変化」が追い風に 野村CIO・宮嵜浩のイメージ

中東情勢緊迫化の背景は「後ろ盾」の弱体化

中東情勢をどう分析すれば良いでしょうか。

根本的な原因は、イランとイスラエルの対立でしょう。宗教も文化も異なるため摩擦が起きやすいものの、以前はロシアと米国がそれぞれ後ろ盾となって存在感を発揮し、地域の均衡や平和を維持していました。しかし、ロシアも米国もこれまでのように影響力を行使して歯止めをかけることが難しくなっており、今回の事態に至ったと考えています。「後ろ盾の弱体化」を露呈した出来事と言えるでしょう。

トランプ米大統領は米国時間9日にイランでの軍事作戦について「終結が近い」と語りましたが、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が解除されない限り、原油価格の上昇圧力は高まり続けるでしょう。しかし、過度に悲観視する必要はないと考えています。IEA(国際エネルギー機関)によると世界の原油需給は供給過剰であり、中東産原油の安全な輸送ルートが確保されれば、原油価格の上昇圧力は弱まるはずです。

また、米国企業がシェールオイルを大規模生産する原油価格の水準は75ドル程度とされ、80ドルを超える現在の価格水準が続けばシェールオイルの増産観測も強まるはずです。需給ひっ迫への警戒感と先高観は徐々に和らぐと考えています。中長期的に原油価格が高止まったり、原油高を理由に株価がどんどん下落したりする状況にはなりにくいのではないでしょうか。むしろ、株価が下落する場面では、高市政権への期待感などを背景に、投資家の資金が日本株式に向かいやすいと考えています。

原油価格と天然ガス価格の推移

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(注)直近値は2026年3月10日。原油価格はWTI期近物、天然ガス価格はオランダTTF。大規模増産が可能な原油価格は米カンザスシティ連銀調査。直近は2025年10~12月期。
(出所)カンザスシティ連銀、ブルームバーグより野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング作成

銀行セクターへの悲観は不要

第2次高市政権が発足し、1ヶ月が過ぎました。この間の株式市場の動きをどうとらえていますか。

業種別で見ると、銀行セクターの下落が目立っています。自民党が衆院選で大勝したことで、低金利環境が続くとの見方が強まったためでしょう。2月に植田和男日銀総裁と会談した高市首相が「追加利上げに難色を示した」との報道がありました。4月からは「リフレ派」と評される2人の経済学者が新たに審議委員に加わります。こうした動きが日本銀行の追加利上げの後ずれ観測と、利ざやで稼ぐ銀行セクターの収益改善期待のはく落につながったのだと考えられます。

国内政治だけではありません。このところ話題になっている「プライベートクレジット」の問題もあると思います。多くのプライベートクレジットは年金や保険、ファミリーオフィスなどから資金を調達しますが、一部では銀行からも資金を借り、融資に充てています。そうしたファンドでは、融資先の破綻などにより銀行が資金を回収できなくなる可能性もあるため、市場参加者の間で警戒感が強まり、株価にも響いているのでしょう。

しかし、中長期的に見れば、あまり悲観視する必要はないと考えています。高市首相を国民が支持した理由は「デフレ脱却への期待」です。「責任ある積極財政」によってインフレと賃金上昇の好循環が続くのであれば、いずれ金利は上昇するはずであり、銀行セクターへの追い風になるでしょう。実際、インフレ予想を反映し、衆院選後は不動産セクターや、不動産市場の動向が業績に影響する建設セクターの株価が上昇しています。

金利上昇は不動産セクターにとって逆風なのではないでしょうか。

不動産会社は一般的に銀行などからお金を借りて物件の取得や建設に充てており、借り入れコストの負担増加は業績にマイナスでしょう。しかし、不動産の価値が上がれば、借り入れコスト以上に収益が拡大し、業績改善につながります。1980年代のバブル期を振り返っても一目瞭然です。当時は金利が上昇し続ける中で不動産価格も値上がりしていました。

日本経済の活性化をもたらす安全保障の「自立」

高市首相はエネルギー安全保障の強化も重視しています。

安全保障については、グローバルな政治力学の変化を踏まえる必要があるでしょう。日本の同盟国でGDP(国内総生産)世界第1位の米国は、「双子の赤字」を抱えて経済成長力に陰りが見え始めています。先ほど述べたように、もはや世界の安全保障を一手に引き受けるという立ち位置ではなくなっている印象です。一方で、日本との経済的な結びつきが強いGDP世界第2位の中国は軍事と経済の両面で存在感を強めており、2つの大国間で覇権争いが繰り広げられています。中東情勢の緊迫化もあり、地政学リスクはどんどん高まっています。

日本は今後ますます、安全保障での「自立」が求められるでしょう。中東情勢の悪化もあり、日本がほぼ100%輸入に頼る原油などエネルギー分野は喫緊の課題です。エネルギー調達先の多様化は既存の石油関連会社などが主導していくと考えられますが、国内でもエネルギー源を確保すべく、再生エネルギーなどに関するイノベーションが生まれるのではないでしょうか。もちろん、一連の動きには、これまで中国から安価に輸入していたレアアース(希土類)のような資源の安定的な確保も含まれます。

安全保障を自国で賄うというのは、とても大変な仕事であり、時間がかかります。一方で関連するプロジェクトが立ち上がることで、新たな投資ニーズを生むでしょう。エネルギー安全保障の強化は、長い目で見れば日本経済の活性化につながり、成長を後押しするはずです。

どのぐらいの期間にわたり、日本経済に恩恵をもたらし続けるのでしょうか。

政策も含め、日本でのエネルギー利用の構造が大きく変わる可能性もあるため、5年や10年といった短いスパンの話ではないでしょう。はっきりとした答えは持ち合わせていませんが、例としてオーストリアの経済学者シュンペーターが唱えた3つの「波」を紹介します。

シュンペーターは、好況と不況を繰り返す景気サイクルには3つの波があると分析しました。最も短いのが在庫の積み増し・取り崩しによって3~4年ごとに景気が変わる「キチン波」、設備投資を理由とした約10年周期の「ジュグラー波」、そして最も長いのは技術革新などによって約55年かけて景気が変動する「コンドラチェフ波」です。

技術革新によってエネルギー利用の在り方が大きく変わるとすれば、コンドラチェフ波のように50年ぐらい続く大きな波になっても不思議ではありません。実際、エネルギー源の主役を石炭から奪った1960年代以降、原油は50~60年にわたり世界経済の成長を促進し続けてきました。

技術革新と淘汰がもたらす景気停滞は次の経済成長への糧

技術革新といえば、AI(人工知能)の成長も目を見張るものがあります。

今から10年前、AIがこれほどまでにブームになると、誰が予想できたでしょうか。今後、私たちが想像もできない分野で新たな技術やサービスが生まれても不思議ではありません。

AI向けデータセンター投資を巡っては、いまは巨額の設備投資がクローズアップされていますが、いずれ次の局面に向かうときが訪れるでしょう。業界内での淘汰です。シュンペーターは「イノベーションは創造的破壊を伴う」とも語っています。技術革新で既存ビジネスの破壊が進む一方、価格競争が激しくなり、最終的には利益を独占する企業が現れ、その企業が次の技術革新に向けて再投資をするという流れがAI市場でも起こり得ます。

競争激化と淘汰の過程では、景気停滞は避けられません。しかし、中長期的には世界経済にプラスとなるはずです。米マイクロソフトのパソコン向けオペレーティングシステム「ウィンドウズ」の登場によって、私たちの仕事や生活は大きく変わりました。淘汰が進むAI分野でも、勝ち残った企業が安定したAIプラットフォームを提供し、一段と普及・成長させていく役割を担うことで、私たちの利便性も高まるはずです。

日本株式は短期下振れリスクも、構造変化が中長期的には追い風に

個人投資家はどのように資産を運用すればよいでしょうか。

日本の株式市場については、短期的な視点と中長期な視点に分けて判断する必要があります。短期的には日本株式に逆風が吹く可能性があるでしょう。円高リスクが高まっているためです。「購買力平価説」(注)という考え方に基づくと、米ドル円相場は適正な為替水準から大きく乖離(かいり)して円安・ドル高が進んでいます。

(注)購買力平価説とは、通貨の価値がそれぞれの国の商品やサービスを買うことのできる力(購買力)や物価水準によって決まるという為替相場決定メカニズムの仮説の1つ。2国間の購買力の比によって決まる「絶対的購買力平価説」とインフレ率の比で決まる「相対的購買力平価説」の2つの考え方がある。為替相場の見通しを立てる上では、相対的購買力平価説の利用が一般的。

米ドル円相場の購買力平価とスポットレートの推移

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(注1)購買力平価=1973年のドル円相場×(日本の物価指数÷米国の物価指数)。
(注2)ドル円相場は直近値が3月10日。購買力平価は2月末時点。
(出所)国際通貨研究所、ブルームバーグより野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング作成

今後、ドル円相場が購買力平価に基づく水準に戻るためには、(1)購買力平価が一段と円安・ドル高水準にシフトする、(2)現在のドル円相場が一段と円高・ドル安水準に向かう、の2パターンが想定されます。(1)の場合は日本のインフレ率が米国を大きく上回る状況を受け入れる必要があり、高いインフレ率と整合的な水準まで金利が上昇する可能性があります。一方、高いインフレ率が容認されなければ、日銀がインフレ抑制のために大幅な利上げに踏み切るかもしれません。日銀が利上げをすればインフレ圧力は沈静化しますが、いずれのケースでも日米金利差の縮小に伴う円高・ドル安は避けられないと考えています。

一段の円安・ドル高の進行とインフレ率の上昇は、国民感情としては到底受け入れられないものでしょう。政府としても、円安の是正やインフレ抑制に向けて政策を打ち出すはずです。こうした状況を踏まえると、これまで円安メリットを享受してきた輸出関連企業の業績の重荷となり、日本の株式市場全体として上値が重くなるかもしれません。一方で、エネルギーや原材料を輸入する内需関連企業などに注目が集まる可能性があります。

ただし、それらはあくまで短期的な見通しです。中長期的には、これまで説明してきたように日本の株式市場には追い風が吹くと考えています。「失われた30年」を経て、日本がついにインフレ社会に変わりつつあります。外部環境の変化を受けて、エネルギー安全保障分野などでの「自立」も求められています。AIのように、新たなテクノロジーもどんどん出てきています。高市首相登場の背景にあった経済的、歴史的な局面変化を理解した上で、中長期的な視点でポートフォリオを構築しましょう。

また、地域分散も重要です。運用資産の中心が米国株式、という投資家も決して少なくないはずですが、米国の誇るテクノロジーの優位性がすでにキャッチアップされているのは事実です。米中よりも人口が多く、高成長を続けるインドのような第三国が米中に取って代わり、世界への影響力を強めるかもしれません。グローバルでの覇権争いの帰趨がどうなるか予測できない中、リスクを分散させる意味でも、さまざまな国・地域へ資産配分すると良いでしょう。

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野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング CIOマネジメント部チーフ・ストラテジスト
宮嵜 浩
1994年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、2001年中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。1994年に山一証券へ入社。その後、富士通総研、三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、しんきんアセットマネジメントチーフエコノミスト、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所シニアエコノミスト、みずほリサーチ&テクノロジーズ主席エコノミスト、伊藤忠総研マクロ経済センター長兼主席研究員として国内外のマクロ経済やマーケットの調査・分析に従事。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

 
   
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