2025.12.02 NEW

日銀の次回利上げ予想を25年12月に前倒し 植田総裁講演を受け見通し変更 野村證券・森田京平

日銀の次回利上げ予想を25年12月に前倒し 植田総裁講演を受け見通し変更 野村證券・森田京平のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

12月1日、日本銀行の植田和男総裁が名古屋支店で経済界の代表者と懇談会を開き、挨拶を行いました。植田総裁は12月の金融政策決定会合について「利上げの是非について、適切に判断したい」と明言し、12月会合が「(政策変更もあり得る)ライブ会合」となることを明確に示しました。これを受けて、野村證券は次回利上げ予想を2026年1月から2025年12月に前倒ししました。野村證券金融経済研究所チーフ・エコノミストの森田京平が解説します。

日銀の次回利上げ予想を25年12月に前倒し 植田総裁講演を受け見通し変更 野村證券・森田京平のイメージ

野村證券は次回利上げ予想を2025年12月に前倒し

植田総裁の挨拶からは、(1)2026年春闘(春季労使交渉)の「初動のモメンタム(勢い)」について一定の手応えを得つつあること、(2)為替が基調的な物価上昇率に影響を及ぼす可能性に留意していること、が窺えました。

今回の挨拶を受けて、野村證券は日銀が次回12月18〜19日の金融政策決定会合で利上げをする可能性が高まっていると判断しました。そこで野村證券は、次回利上げ予想を2025年12月に前倒しし、従来メインシナリオとしていた2026年1月の利上げをリスクシナリオに格下げします。

日銀は春闘の「初動のモメンタム」に一定の手ごたえ

今回の植田総裁の挨拶において、野村證券は(1)春闘の「初動のモメンタム」を巡る評価、(2)円安の進行が物価に与える影響への言及の2点に主に注目していました。植田総裁の講演では、その両方について、12月の利上げを正当化し得る環境に向かいつつあるとの評価が示されました。

2026年春闘を巡って、野村證券は12月決定会合までに入手できるのは労働組合側の情報が中心で、経営側の情報は年末年始を中心に、2026年1月決定会合にかけて明らかになるとみていました。一方、植田総裁は、「経営者側も、例えば経団連は、賃上げのさらなる定着という方針を強く打ち出している」、「経済同友会が9月に実施した調査をみても、多くの企業が、今年とほぼ同じかそれ以上の賃上げ率を予定」と述べるなど、経営側の情報も含めて「初動のモメンタム」に関して一定の手応えを持ちつつある様子です。

加えて、植田総裁からは「12月18日、19日に予定されております次回の決定会合に向けて、本支店を通じ、企業の賃上げスタンスに関して精力的に情報収集しているところです。(中略)様々なデータや情報をもとに点検・議論し、利上げの是非について、適切に判断したい」という発言もありました。賃上げを巡る情報収集をさらに進め、それに基づいて12月決定会合での利上げの是非を判断するとの姿勢が窺えます。

為替変動による基調的な物価の上振れリスクに一定の警戒

為替と物価の関係を巡っては、「為替相場の変動を含む輸入物価の動向、およびその国内価格への波及も、物価の上振れ・下振れ双方の要因となります。この点、企業の賃金・価格設定行動が積極化するもとで、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっていることや、そうした動きが、予想物価上昇率の変化を通じて基調的な物価上昇率に影響する可能性があることに留意が必要」と述べました。これまでも、為替の変動が過去と比べて物価に影響を及ぼしやすいとの指摘はありましたが、今回は、為替変動が予想物価上昇率や基調的な物価上昇率にまで影響が波及する可能性にまで言及した点がポイントです。

日銀は為替を直接的な目的として金融政策を運営するわけではありませんが、それが基調的な物価に対して影響を及ぼす可能性があるのであれば、利上げを正当化する要素になり得ます。春闘の「初動のモメンタム」を主軸としつつ、為替が基調的な物価上昇率の上振れにつながりうることへの警戒も、12月の利上げを後押ししていると考えられます。

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政府方針との整合性への配慮が感じられる発言も

このほか、「政策金利を引き上げるといっても、緩和的な金融環境の中での調整であり、例えて言えば、景気にブレーキをかけるものではなく、安定した経済・物価の実現に向けて、アクセルをうまく緩めていくプロセス」、「わが国経済を息の長い成長軌道に乗せるために必要であり、ひいては、これまでの政府と日本銀行の取り組みを最終的に成功させることにつながる」といった発言も注目されます。

こうした発言をあえて示したことからは、利上げを巡って政府と日銀の姿勢に大きなズレがないことをアピールし、次の利上げを円滑に進めるための地ならしを意図しているとも読めます。

なお、日米経済については、関税による下押しは限定的であり、底堅く推移しているとの見方が引き続き示されました。先行きについても、「不透明感は次第に薄れてきているように思います」と述べています。少なくとも、米国の関税の景気への影響が次回利上げの妨げとなる可能性は低いとみられます。

2026年に利上げの休止期間が生じるという見方は維持

次の利上げを経て政策金利が0.75%に達した後、コアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)が前年比2%を割り込むことで、2026年に利上げの休止期間が生じるという野村證券の見方は今回も維持します。今回の挨拶でも、植田総裁はコアCPIについて「来年度前半にかけて、いったん2%を下回る水準までプラス幅を縮小」と述べており、こうした物価の見通しは野村證券の見方と共通します。また、「展望レポートの見通し期間後半には、2%の物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移」との見方が再度繰り返されました。野村證券は日銀が中立金利(景気を熱しも冷ましもしない水準。ターミナルレートに一致すると野村證券は予想)に到達する時期を2027年7月とみていますが、このタイミングの前倒しを意識させるような発言は聞かれませんでした。

一方、こうした見方のリスクとなるのは為替動向です。政策金利を0.75%まで引き上げても、円安が物価に対して継続的な上押し圧力として働き続ける場合、2026年に日銀が、CPIインフレ率の2%割れと円安の同時発生という難題に直面することも想定されます。仮に12月に追加利上げを実施できたとしても、そのことが必ずしも2026年の金融政策運営の安定性を保証するわけではありません。

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野村證券 金融経済研究所 チーフ・エコノミスト
森田京平
1994年九州大学卒業、野村総合研究所入社。英国野村総研ヨーロッパ、野村證券金融経済研究所を経て、バークレイズ証券(2008~2017年)およびクレディ・アグリコル証券(2017~2022年)にてチーフ・エコノミストを務めた。2022年7月より現職。2000年米ブラウン大学より修士号(経済学)、2018年九州大学より博士号(経済学)を取得。共著に『人口減少時代の資産形成』(東洋経済新報社)、『現代金融論 新版』(有斐閣)など。

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