2026.02.13 NEW
野村総研・木内登英さんが語る 衆院選後の円高は「政策修正への期待」 日銀利上げへの影響は?
撮影/タナカヨシトモ
2026年2月8日投開票の衆院選では、自民党が戦後最多となる316議席を獲得しました。選挙結果を受けて株式市場では株高が進んだものの、債券市場では金利上昇(債券価格は下落)が落ち着き、外国為替市場では円高・米ドル安が進むなど、投開票前の「高市トレード」とは異なる動きも見せ始めています。金融市場で何が起きているのでしょうか。野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんに詳しく聞きました。

サプライズだった衆院選
- 衆院選は自民党が勝利しました。予想通りの結果でしょうか。
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衆院選の結果は、予想以上に自民党が議席数を伸ばし、選挙結果を受けた金融市場の反応もサプライズでした。財政支出の拡大やインフレなどを背景にした株価上昇、金利上昇、外国為替市場での円安・米ドル高などを期待する、いわゆる「高市トレード」が加速すると見込まれていましたが、実際には長期金利(指標となる新発10年物国債の利回り)はおおむね横ばい圏で推移したほか、円高・米ドル安が進みました。
- なぜ予想と異なり円高・米ドル安の動きになったのでしょうか。
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まず、政権基盤の安定などを好感した「日本買い」が進んだという解釈ができます。加えて、金融市場の参加者が、高市早苗首相が首相指名選挙で再選されたとしても「積極財政の姿勢を一段と強めるとは限らない」とにらんでいる可能性もあるでしょう。今回の衆院選で自民党は2年間限定の消費税減税を掲げましたが、選挙後もこれまで実行に向けた明確なメッセージがありませんでした。政策修正への思惑が金利上昇や円安・米ドル高に歯止めをかけたのかもしれません。
株高の持続性に疑問符
- 足元で上昇が続いている株式市場にも影響がありそうでしょうか。
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はい。特に株式市場への影響が大きい米ドル円相場はこれ以上円安・米ドル高が進みにくい可能性があり、株高の持続性については懐疑的にならざるを得ないでしょう。
まず、1米ドル=160円に近付く場面ではレートチェックや口先介入が行われているようで、高市政権の「防衛ライン」になっている可能性があります。また、中国の米国債離れや米景気減速懸念を背景とした利下げ観測、ケビン・ウォーシュ元FRB(米連邦準備理事会)理事のFRB議長指名とトランプ米大統領のFRB介入観測など、米国固有の材料による米ドル安も円高圧力を高めやすいと言えます。
ほかにもあります。11月の米中間選挙に向けてトランプ大統領は当然、雇用を回復させ、米景気を押し上げたいはずです。関税政策の違憲性が疑われているいま、貿易赤字を減らして米国の復権を印象付ける次の手段が米ドル安であり、トランプ大統領やラトニック米商務長官も米ドル安を容認する発言をしています。そうした米国側の事情も踏まえると、高市政権も円安を促すような政策は実行しにくいと予想されます。
- 米国に配慮して政策を修正するということでしょうか。
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衆院選前の日本の債券市場では長期金利が急ピッチで上昇し、グローバル債券市場に影響を与えました。片山さつき財務相も1月のダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)という国際会議の場で日本の債券市場の安定に向けてコメントしました。日本の金利が上昇すれば米国の金利上昇につながり、米ドル高要因となります。米国としては看過できません。金融市場に過度に影響を与えることのないよう、米国の意向などもある程度踏まえ、政策を修正する可能性が出てきたと考えています。
防衛費増額は先送りか、消費税減税にも不透明感
- どのような政策修正があり得ますか。
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経済政策の柱である危機管理投資については、やや予算を手厚くする方針は変わらないでしょう。金融市場への影響で読みにくいのは、防衛費です。トランプ大統領が同盟国に対して要求する防衛費の増額を日本でそのまま実行すると、追加で20兆円ほどの財政支出が必要となります。トランプ大統領の要求を踏まえつつ米中間選挙への影響も抑える手段として、防衛費増額の先送りが想定されます。先送りが実現すれば日本の財政悪化を抑え、金利上昇は限定的になるかもしれません。
金利上昇につながる消費税減税についても、見直される可能性があると考えています。そもそも、ほとんどの政党が程度の差こそあれ消費税減税を掲げ、選挙戦の争点にはなりませんでした。つまり、消費税減税への強い支持によって自民党が勝ったわけではないのです。むしろ、このところは社会保障費の財源を賄うために減税すべきではない、という声も増えています。
また、2028年に参院選を控える中、2年間に限った減税策が選挙に不利に働くかもしれません。与野党が参加して議論する「国民会議」などを経て、消費税減税とは異なる施策に落ち着くことも想定されます。
日銀の追加利上げは9月か
- 金利上昇を抑制するため、日本銀行への干渉も強まるのでしょうか。
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私は2012年から5年にわたり、日銀の審議委員を務めました。当時は2012年の衆院選で自民党が大勝し、今回と似たような状況でした。異なるのは、自民党は今回の衆院選で金融緩和策の継続などを公約に掲げたわけではないということです。当時と比べて政治的な圧力は小さく、日銀がフリーハンドで金融政策を実行できる余地は大きいといえます。
とはいえ、日銀には国民の意見を反映しながら政策運営を進めるという考え方が根付いているほか、可能な限り政府との対立は避けたいという思いもあります。そのため、利上げのタイミングを後ろにずらすなど、政権への配慮を示した上で金融政策の実現を目指すでしょう。
金融市場参加者の間では、日銀が4月や6月など2026年前半に追加利上げに踏み切るとの見方が広がっているようです。しかしこれまで説明した通り、高市政権の積極財政姿勢が修正されることやFRBの利下げ観測が強まっていること、2026年は日本のCPI(消費者物価指数)の伸びが落ち着くこと、日銀の利上げに対して政権からのけん制が強まることなどを踏まえると、次の利上げは市場予想よりも後ずれし、9月の金融政策決定会合になると予測しています。
- 消費者物価指数の伸びが落ち着くのであれば、利上げは必要ないのではないでしょうか。
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2025年にコメ価格がピークを付け、食料品値上げの動きに一巡感が出ているほか、ガソリン暫定税率の廃止や電気・ガスの負担軽減支援策も重なり、2月以降はCPIの伸び率が1%台まで低下する可能性が高まっています。確かに表面的に見れば、CPIの伸び率鈍化は利上げをしない理由になります。しかし、中立金利(景気を刺激したり、冷やしたりしない金利水準)と比べて足元の政策金利はまだ低いとみられ、安定的な経済成長・インフレの実現、金融政策の正常化に向けては、あと1~2回の利上げが必要であると考えています。
本格的な円安修正には時間が必要
- 個人投資家は今後、どんな点に注意すれば良いでしょうか。
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高市首相の積極財政だけではなく、急ピッチの円安・米ドル高の進行とコロナ禍以降の物価高、日銀の利上げ開始タイミングの後ずれなど複数の要因で国民のインフレ期待が高まり、それが円安・米ドル高を促している側面もあります。インフレ期待はいったん高まると、鎮静化まで時間がかかります。1米ドル=160円の「防衛ライン」や米国の米ドル安志向などが円安・米ドル高のトレンドに歯止めをかけているものの、本格的に円安の動きが修正されるには、時間がかかるかもしれません。こうした点を踏まえ、投資先を選ぶと良いでしょう。
- 野村総合研究所 金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト
木内 登英 - 1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※本コラムで取り上げられたマーケットや投資に関する考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。本コラムは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
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