2026.03.19 NEW
中東情勢悪化とFRBの利下げ慎重姿勢を受け、米ドル全面高・株安が加速 野村證券・後藤祐二朗
撮影/タナカヨシトモ(人物)
FRB(米連邦準備理事会)は、2026年3月17〜18日に開いたFOMC(米連邦公開市場委員会)で、政策金利を据え置きました。パウエル議長は、原油高騰の下で利下げを急がない姿勢を示しました。イラン情勢への楽観的な見方も一部後退し、株式市場は株安、為替市場は米ドル全面高で反応しました。野村證券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、イラン情勢の鎮静化が見られるまでは、米ドル高が続くとの見方を示しています。以下で詳細を解説します。

FRBは政策金利を据え置き
FRBは政策金利を3.50-3.75%で据え置きました。声明文では「中東情勢による米国経済への影響は不確実」との表現が追加され、失業率に関する表現も「幾分安定化の兆候を示している」から「ここ数ヶ月間はほとんど変わっていない」へと微修正されましたが、総じて小幅な変更にとどまっています。利下げ票はミラン理事1人となり、1月FOMCで利下げを支持していたウォラー理事は据え置き支持に回りました。
経済見通しは全般的に上方修正され、FRBが重視するインフレ指標であるコアPCEデフレーターの見通しも2026〜27年について上方修正されています。一方、ドッツ(FOMC参加者の政策金利見通し)の変化は比較的限定的で、2026年および2027年にそれぞれ25bp(ベーシスポイント)の利下げが中央値として維持されています。長期ドッツは3.125%と、前回(3.000%)から小幅に上方修正されました。
(注)ドッツはFOMC参加者の政策金利見通し。直近は3月18日時点。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
パウエル議長は利下げを急がない姿勢
パウエル議長は記者会見で、「エネルギー価格高騰は全体のインフレを押し上げる」と発言し、影響の一部は「コアインフレに表れる」との懸念を示しました。「関税によるインフレが減退するとの確信を若干強める」との発言も見られましたが、「インフレ面での進展がなければ利下げはない」とし、原油価格高騰下で利下げを急がない姿勢を示唆しています。パウエル議長が、政策スタンスは非抑制的と抑制的のボーダーラインにあるとしたうえで、「金利をやや抑制的な水準で維持することが重要」と述べた点も、利下げを急がない姿勢の表れといえます。
パウエル議長は「次回の政策変更が利上げになる可能性についての議論もあった」とした一方、次回政策の基本シナリオについては「大多数が利上げを想定していない」と述べました。ドッツでも示されたように、FRBのバイアスは依然として利下げ方向にありますが、中東情勢にまつわる不確実性が高まるなか、FRBは利下げを急がず、次回FOMCでも据え置きが継続するとみられます。
また、パウエル議長は、FRB本部改修工事を巡る司法省の調査が完全に終結するまでは、理事としてとどまる意向を示しています。ウォーシュ元理事の議長就任に向けた議会の動きも停滞しており、トランプ米大統領のFRBへの圧力は利下げにつながりにくい状況といえそうです。
イラン情勢への懸念も加わりリスクオフ
FOMCを前に、イラン情勢悪化への警戒からNY原油先物は100米ドル前後まで再上昇し、VIX指数(恐怖指数)が上昇に転じるなど市場心理は悪化し、楽観的な見方が一部巻き戻されていました。パウエル議長が利下げに慎重な姿勢を見せたことで、おおむねフルに織り込まれていた2026年中の25bp利下げ期待は5割強まで低下し、米債利回りはベアフラット化(平たん化)し、株安が加速しています。
為替市場では米ドル全面高で反応し、株安もあって新興国通貨の下げ幅が相対的に大きくなっています。米ドル円については、目先は当局の介入があるかが焦点となりそうです。
片山さつき財務相は今週に入り、為替相場について「最大限の緊張感を持って、断固たる措置」を含めた姿勢でいると発言し、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に沿わない動きが続いているとの認識を示しました。「断固たる措置」は事実上、為替介入を意味する表現といえ、強い口先介入といえます。片山財務相は1月16日にも同様の表現でけん制しており、同月23日の日銀会合後の円安加速を受けて、NY連銀によるレートチェック(為替介入の前段階となる取引状況の照会)が行われています。足元でも日米当局が円安への警戒感を再び高めている可能性があり、対応が注目されそうです。
イラン情勢鎮静化までは米ドル全面高、事態収束で米ドル安へ回帰の公算
イラン情勢を巡る不確実性の高まりは、安全資産としての米ドル買い戻しに加え、原油高の米国経済への悪影響は相対的に小さいとの見方からも、米ドル全面高につながっています。原油高を受け、FRBが利下げを急がない姿勢を示したこともあり、イラン情勢の鎮静化が見られるまでは、為替市場で米ドルが強い状況は続きやすいでしょう。
ただし、1月TIC(国際資本統計)データでは、海外の民間投資家が米国債を7.2億米ドルと少額ながら2ヶ月連続で売り越していました。イラン攻撃を受け、トランプ政権下での米政策運営の不確実性は一段と高まった感もあり、底流としての緩やかな米ドル離れの動きは継続しやすいでしょう。短期的には米ドルが想定以上に強い時間帯が続きそうですが、イラン情勢の鎮静化が見られれば、FRBも利下げ姿勢に回帰し、為替市場では米ドル安圧力が再燃しやすいとみられます。
(出所)マクロボンド、ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗 - 為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半に渡るニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。
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