2026.08.10 NEW
協調為替介入を受け利上げペースは加速するか 高市政権から9月利上げ容認メッセージが出るかに注目 野村證券・宍戸知暁
撮影/タナカヨシトモ(人物)
日米両政府は2026年7月31日、協調して円買いの為替介入を実施しました。米国が実弾介入で日本を全面的に支援したことで、市場が想定する日本銀行の利上げシナリオは大きく変化しています。本記事では、協調介入が市場に及ぼす影響と今後の見通しについて、金利の観点から野村證券シニア金利ストラテジストの宍戸知暁が解説します。

2会合に1回の利上げペースの方がむしろ自然
日米当局による「協調」為替介入や、ベッセント米財務長官による日銀の早期利上げを促すような発言を受け、円金利市場では、日銀が従来の想定よりも短い間隔で利上げするとの見方が強まりました。OIS(翌日物金利スワップ)市場は、2026年10月の日銀会合までに25bp(ベーシスポイント)、2027年3月会合までに累積50bpの利上げを完全に織り込みました。これは、金融政策決定会合3会合につき1回のペースでの利上げを織り込んだことになります。実際、野村證券も日銀が2026年10月、2027年3月、同年7月と、3会合ごとに利上げするとの予想に変更しました。
(注)会合OISは日銀政策決定会合間の翌日物金利を取引するOIS。OISおよびJGBは3ヶ月フォワード・カーブ、ただしJGBの2年だけは2年先1年フォワード金利。
(出所)Bloomberg、野村證券市場戦略リサーチ部
ただ、このペースでも、他国では過去にも例を見ないほど遅いといえます。ゼロ・インフレと「金利のない世界」が長く続いた、日本特有の現象が継続していることになります。しかし、主要なインフレ期待指標が軒並み物価安定目標の2%に達し、日銀も基調的なインフレ率がほぼ2%に達しつつあると認めています。こうしたなか、このような「ガラパゴス」現象が続くと考える理由は乏しいとみています。利上げが2会合に1回まで速まれば、他の中央銀行の利上げ局面でしばしば見られてきたペースとなり、利上げペースも「正常化」することになります。
ターミナルレート期待は上がらずとも利上げペース期待が速くなれば円安圧力緩和の可能性も
ホルムズ海峡の早期正常化が見込みにくくなるなか、円安圧力が収まらないことが、足元で日銀の利上げ期待が高まっている主因と考えられます。したがって、今後の利上げ間隔や到達点を占ううえでは、どの程度のペースで、どこまで利上げすれば円安圧力が止まるのかが大きなカギを握ります。野村證券が見込む1.75%や、市場のターミナルレート期待の代理変数とみなされることが多い2年先1年物のフォワード金利が示す2%強まで利上げしても円安圧力が収まらなければ、さらに高い水準までの利上げが必要になります。
しかし、ターミナルレートへの期待がさほど高まらなくても、利上げペースが2会合に1回などに加速すれば、円安圧力が収まる可能性があるとみています。根拠の第一は、例えば、現在のインフレ期待が2%、自然利子率(実質の中立金利)が-0.5%とすると、現在の政策金利1.0%は実質で-1.0%となり、なお緩和的です。半年後に1.25%へ利上げしても、その間にインフレ期待が0.5%ポイント上昇して2.5%になれば、実質金利は-1.25%となり、かえって低下します。実質金利の低下は、一般に円安方向に作用すると考えられます。これに対し、2会合に1回などの速いペースで利上げすれば、そもそもインフレ期待が上昇しない可能性があります。仮に同じく0.5%ポイント上昇しても、名目金利も0.5%ポイント上昇するため、実質金利は低下しません。緩やかに利上げする場合に比べ、実質金利は相対的に高くなり、円安圧力も小さくなると考えられます。
第二に、2024年7月の日銀による「タカ派」的な利上げでは、ターミナルレートへの期待はさほど上昇しなかったものの、円安圧力は急速に後退しました。米雇用統計の下振れや日本株の暴落がなければ、円安圧力は後退しなかった可能性もあります。一方、株価暴落が発生したこと自体、利上げペースを速めることが金融環境の引き締まりに有意に寄与したと解釈することもできます。
高市政権から9月の利上げを許容するメッセージが出てくるかに注目
2026年7月の金融政策決定会合で公表された展望レポートでは、インフレ上振れのリスクとして、円安、AI投資と半導体価格の上昇、原油高の3つが挙げられていました。AI投資による景気の上振れや半導体価格の上昇は、日本だけでなく米国など海外でもインフレ圧力を高めます。海外の中央銀行のタカ派化を通じ、円安要因にもなります。原油高も同様のメカニズムに加え、日本の貿易収支の悪化や、産油国通貨かつ原油取引の決済通貨である米ドルが強くなりやすい傾向を通じて、円安要因となります。目先、円安圧力が自然に後退するとは考えにくく、日銀への早期利上げ圧力は強まることはあっても、弱まることはないとみられます。2026年9月の日銀会合が、利上げの可能性がある「ライブ」な会合となる蓋然性は高まっているとみています。お盆明けに、高市早苗政権から早ければ2026年9月の利上げを容認するメッセージが出るかに注目したいところです。
2年金利は上昇見込みも10年金利は横ばい圏の動きとなる可能性
利上げペースが2会合に1回まで速まる可能性を視野に入れるなら、2年金利にはなお上昇余地があります。前述のように、利上げペース加速の確度が高まれば、ターミナルレートへの期待はそれほど上昇せず、10年金利の上昇余地は小さくなる可能性があります。また、円安圧力やインフレの上振れリスクを封じ込めるために日銀が必要と判断するだけの利上げが可能だとの信頼感が醸成されれば、高市政権の財政政策姿勢が転換しなくても、超長期金利は現在の非常に高い水準から低下する余地があると考えています。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 シニア金利ストラテジスト
宍戸 知暁 - 2000年野村総合研究所入社。2003年からニューヨークの野村総研アメリカおよび米国野村證券で米国マクロ経済の分析に従事。2006年からマクロ経済分析を基礎とした米国債券市場の分析・予測を担当し、その後は米株式市場の分析およびマルチアセット・ストラテジーを担当。2022年から2年間、財務省理財局国債業務課で市場分析官として勤務し、海外市場および円金利市場の分析に従事した。2023年6月から円金利ストラテジー担当。 ファンダメンタルズ分析および中銀ウォッチを基本に、投資家の売買動向を含む市場需給見込みも加味した予測作成およびストラテジー構築を心掛けている。
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