2026.10.26 NEW
3つのシナリオで考える日本の原油輸入金額 12月に米・イラン合意したら原油価格は下がるのか? 野村證券・髙島雄貴
撮影/タナカヨシトモ(人物)
中東情勢の影響で原油価格の高止まりが続いています。先行きが見通しにくい状況ですが、今後、仮に米・イランの合意等によって先物価格が急落した場合、日本が輸入している原油価格にもすぐに反映されるのでしょうか。仮に11月に米・イラン協議が進展し、12月に合意に達する場合に加え、楽観・悲観シナリオを含む3つの条件で、日本の原油輸入金額がどう変化するかを野村證券経済調査部・市場戦略リサーチ部エコノミストの髙島雄貴が試算します。
足元のサウジアラビア産原油輸入は運賃等で20米ドル/バレル超
2026年3月からのイランによるホルムズ海峡の実質封鎖を受けて、日本は米国など中東以外からの原油調達を本格化させてきました。輸入元別の原油輸入価格にはばらつきが見られ、米国やサウジアラビアからの輸入価格が、UAE(アラブ首長国連邦)やその他地域からの価格よりもやや高い状況です。
(注)直近は2026年8月分。
(出所)財務省より野村證券経済調査部・市場戦略リサーチ部作成
2026年4月以降については、ホルムズ海峡を巡る輸送上の混乱や、紅海からスエズ運河、喜望峰を経由するルートでの輸送が増えたことを考慮し、運賃と保険料を含む入着価格は、スポット価格よりも2ヶ月遅行すると想定して計算します。下の図表の通り、両者の価格差は2026年3月まではおおむね10米ドルを下回っていましたが、2026年8月分は20.9米ドル/バレルと中東情勢が不安定化する前よりも高い水準で推移しています。
(注)価格差は、2026年3月までは入着価格をスポット価格よりも1ヶ月遅行、2026年4月以降は2ヶ月遅行させて計算した。2026年4月以降はホルムズ海峡を巡る輸送上の混乱や、紅海からスエズ運河、喜望峰を経由したルートでの輸送が増えたことを考慮している。図では「サウジアラビアからの原油入着価格」は「ドバイ原油スポット価格」に対して1ヶ月遅行、「価格差」は同2ヶ月先行で表示。
(出所)財務省、ブルームバーグより野村證券経済調査部・市場戦略リサーチ部作成
超大型タンカーのスポット運賃は2025年平均の14倍へと急騰
2025年平均の日本の原油入着価格をFOB(本船渡し)原油価格、運賃、保険料別に見ると、例えばサウジアラビアからはそれぞれ72.3米ドル/バレル、1.8米ドル/バレル、0.02米ドル/バレルです。
| 国名 | FOB原油価格 | 運賃 | 保険料 |
|---|---|---|---|
| サウジアラビア | 72.3 | 1.8 | 0.02 |
| クウェート | 70.9 | 1.6 | 0.01 |
| カタール | 72.8 | 1.8 | 0.04 |
| オマーン | 76.2 | 1.7 | 0.02 |
| アラブ首長国連邦 | 72.2 | 1.6 | 0.03 |
| アメリカ合衆国 | 70.2 | 3.7 | 0.03 |
| エクアドル | 67.1 | 2.9 | 0.01 |
| オーストラリア | 80.8 | 5.5 | 0.04 |
| その他 | 71.1 | 2.1 | 0.02 |
(注)単位は米ドル/バレル。2025年平均値。
(出所)経済産業省より野村證券経済調査部・市場戦略リサーチ部作成
主な原油タンカーであるVLCC(Very Large Crude Carrier=超大型タンカー)のペルシャ湾から日本までのスポット運賃は、2025年平均で2.5米ドルだったのに対し、2026年10月には33.8米ドルへと約14倍にまで急騰しています。ホルムズ海峡やバブエルマンデブ海峡の航行が制限され、従来よりも航行日数が伸びるケースが多発していることなどにより、タンカーの需給がひっ迫していることが背景にあると考えられます。
(注)VLCC:Very Large Crude Carrier(超大型タンカー)。
(出所)ブルームバーグより野村證券経済調査部・市場戦略リサーチ部作成
定期契約のタンカーも使用していると想定されるため、スポット運賃よりも低い運賃が適用されているケースもあると考えられますが、スポット運賃の上昇は、上述した入着価格とスポット価格の乖離の主因とみられます。
米国から喜望峰経由の輸入日数は中東からと比べて約2倍で、運賃も同様
一方、2025年平均の米国からの原油輸入の運賃は3.7米ドルと、中東を上回っています。米国からアフリカ南端の喜望峰を通って日本へ輸入するルートでは約55日を要しますが、これは中東から日本への輸入にかかる約20~25日のおよそ2倍です。運賃もちょうど2倍程度であることから、運賃は輸送日数に比例しやすいと言えます。
| 輸送ルート | 日数 |
|---|---|
| ペルシャ湾から日本まで(ホルムズ海峡経由) | 20日 |
| 紅海から日本まで(バブエルマンデブ海峡経由) | 20-25日 |
| 紅海から日本まで(スエズ運河、喜望峰経由) | 50日 |
| 米国から日本まで(喜望峰経由) | 55日 |
| 米国から日本まで(パナマ運河経由) | 35日 |
| その他地域から日本まで* | 25日 |
(注)その他地域はシンガポール、マレーシア、ナイジェリアなどを想定した仮定の値。日数は航路の混雑状況などにより変動する可能性がある。
(出所)日本経済新聞より野村證券経済調査部・市場戦略リサーチ部作成
「12月に合意シナリオ」の場合、日本が輸入する原油の価格はすぐに下がるか
トランプ政権の立場を弱めるため、イランが11月3日の米中間選挙まで意図的に交渉を引き延ばす戦術を採用しているとも報じられています(10月21日付、ロイター)。以下では、今後の日本の原油輸入金額について、2026年12月に米・イランが何らかの合意に達した場合、輸入金額が最大になるケース、最小になるケースの3つのシナリオを考案します。
<12月に合意シナリオ>
仮に米・イランが12月に何らかの合意に達した場合、ホルムズ海峡および紅海の南側の出入り口にあたるバブエルマンデブ海峡からの原油輸入も徐々に回復すると見込まれますが、調達先分散化の観点から、米国と中東が5分5分となるケースを想定します。
(注)最大ケースでは、ホルムズ海峡およびバブエルマンデブ海峡の実質封鎖が継続し、中東産原油はスエズ運河・喜望峰経由のみの輸入、また米国からの輸入が2026年8月よりもさらに拡大すると想定。「米国と中東が5分5分」のシナリオでは、中東産原油輸入はホルムズ海峡経由とバブエルマンデブ海峡経由が半々となると想定。最小ケースは2026年2月までと同様に、基本的にホルムズ海峡経由の中東原油に依存するシナリオを想定。
(出所)野村證券経済調査部・市場戦略リサーチ部作成
ただし、船舶需給のひっ迫に伴って運賃は3ヶ月程度高止まりした後、2027年の夏場にかけて緩やかに従来の水準へと落ち着いていくと仮定します。原油価格は、米国のシェールオイルの損益分岐点であるWTIベースで見た65米ドル(ドバイ原油は対WTIスプレッドが従来と同様の5米ドル程度まで縮小し、70米ドル)へと落ち着いていくと想定します。
(注) 実績は財務省「貿易統計」における「原油および粗油」の輸入金額。「12月に合意シナリオ」は、2026年12月に米・イランが合意に達し、その後、原油輸送の制約が緩和されていく場合を想定。「最大ケース」ではホルムズ海峡、バブエルマンデブ海峡の実質封鎖が継続する中、米国からの代替調達比率が高まった場合を想定。「最小ケース」では備蓄放出等により原油価格高騰が抑えられる中、一方で何らかの理由により原油の輸入数量が2025年平均を下回る期間が長期化する場合を想定。
(出所)財務省より野村證券経済調査部・市場戦略リサーチ部作成
この場合、図表赤線で示している通り、日本の原油輸入金額は2026年9月の1.1兆円/月から2027年1月にかけて1.9兆円/月まで、7,500億円ほど増加した後、2027年夏場にかけて9,000億円/月まで減少すると見込まれます。日本の原油輸入金額は、運賃が2025年平均まで完全には下がらないと見込まれることや、米国などからの輸入が継続することによる輸送日数の増加に伴い、2025年平均の8,000億円/月をやや上回る水準へと下落すると見込むシナリオです。原油の期近物先物価格が米・イラン合意(仮定)によって急落した場合であっても、FOB価格が日本の入着価格に反映されるのは1~2ヶ月後になる点に加え、運賃の高止まりが生じると見込まれる点には注意が必要です。
日本の原油輸入金額が最大・最小になるケースは
<最大ケース>
日本の原油輸入金額が最も大きくなるシナリオとして、中東情勢が沈静化せず、中東からの原油輸入がすべてスエズ運河・喜望峰経由のルートとなることに加え、米国産原油の輸入が2026年8月時点よりもさらに拡大する場合を想定します。
この場合、日本の原油輸入金額は2026年12月にかけて2.4兆円/月まで上昇した後、その水準で高止まりすると見込まれます。
<最小ケース>
日本の原油輸入金額が最も小さくなるシナリオとして、12月より前のタイミングで米・イランが合意に達する一方、10月に一度減少すると見込まれる原油輸入量の回復が、イエメン内戦におけるフーシ派による対サウジアラビア船舶攻撃がスエズ運河付近にも拡大するなどの理由により、緩やかになる場合を想定します。また、原油輸入元の95%は従来どおり中東産であり、そのすべてがホルムズ海峡経由に戻るという仮定を置きます。
この場合、日本の原油輸入金額は11月に1.5兆円/月まで増加するものの、その後はピークアウトし、2027年4月には9,000億円/月まで減少すると見込まれます。
日本の原油入着価格は先物価格の動向よりも高止まりしやすい
足元の日本の原油輸入では、FOB原油価格の上昇だけでなく、運賃も著しく上昇しています。例えば、サウジアラビアからの原油輸入では、運賃が従来の10倍以上にあたる20米ドル/バレル程度まで急騰していると推計しています。今後、仮に米・イランの合意などによって先物価格が急落した場合であっても、船舶需給のひっ迫や長距離輸送に伴う運賃高が持続し、日本の原油入着価格が高止まりするリスクに注意が必要です。
- 野村證券 経済調査部・市場戦略リサーチ部 エコノミスト
髙島 雄貴 - 2018年野村證券入社。2023年6月まで日本経済担当エコノミスト。コモディティー調査を担当。原油をはじめとして、天然ガス、金、非鉄金属、穀物など、幅広い商品の市況を分析し、先行きの見方を提供。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。現在、日経ヴェリタスの「コモディティー・インサイト」に定期寄稿中。
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