2026.10.13 NEW
日銀の利上げペースは加速している? 背景とリスクシナリオを解説 野村證券・岡崎康平
撮影/タナカヨシトモ(人物)
日本銀行は9月の金融政策決定会合で政策金利を0.25%引き上げ、1.25%程度とする追加利上げを決定しました。利上げのペースが加速しているように感じる方も多いかもしれませんが、このような動きは今後も続くのでしょうか。日銀利上げの背景と想定されるリスクシナリオについて、野村證券チーフ・マーケット・エコノミストの岡崎康平が解説します。
日銀は利上げペース加速へ
- 日銀が9月会合でも利上げを決めました。利上げのペースが早まったようにも感じますが、いかがでしょうか。
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日銀は2024年に利上げを開始し、この数年間にわたって利上げを続けています。比較的ゆっくりと上がっており、平均すると概ね半年に1回くらいのペースで0.25%の利上げが行われてきました。ただ、2026年に入って少しペースが加速しています。直近は9月に利上げがありましたが、その前は6月でしたので、利上げペースは半年に1回から3ヶ月に1回に変わりつつあるという状況です。
(注)「OIS市場織込」は、オーバーナイト・インデックス・スワップ市場における利上げ予想(10月7日時点)。
(出所)Bloombergより野村證券市場戦略リサーチ部作成
9月会合の受け止めは「ハト派的利上げ」
- 日銀はインフレ抑制を重視し利上げに積極的と受け止められるのでしょうか。
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いいえ、市場では、利上げペースが加速したにもかかわらず、日銀は利上げを急がない姿勢で「ハト派」なのではないかと受け止められました。背景がやや複雑なので、丁寧に見ていきたいと思います。
次の図は米ドル円の為替レートです。2026年はかなり円安に進み、一時1米ドル=164円近辺を付けたのですが、その後は円買いの日米協調為替介入や金融当局の口先介入もあり、だんだんと円高方向に動きました。ある意味で、日銀利上げもその方向への取り組みの1つとして見られていたはずなのですが、結果的に市場は円安方向に反応しました。9月会合の後も158円くらいまで進んできています。
(出所)Bloombergより野村證券市場戦略リサーチ部作成
目標間近で利上げペースを加速させる理由
- 円安の動きを抑えるどころか、逆に円安方向となってしまったんですね。日銀としては、これからどのような対応が考えられますか。
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利上げをしてもなかなか円高にならないので、さらなる利上げということが考えられますが、もちろん為替の動向だけで日銀は政策を決めているわけではありません。経済や物価の状況など様々なことを考えながら金融政策を行っていくことになるでしょう。
日銀の金融政策は、為替とは違う文脈で曲がり角に来ている状況と言えます。次の左側の図が、これまでの政策運営を表しています。赤い線は経済の実力的な部分、すなわち基調的インフレ率ですが、これが徐々に上がる中で日銀は利上げを少しずつしてきました。あくまで低すぎる金利は良くないということで上げてきたのであり、実力としてのインフレ率の上昇は許容していたということです。なぜなら2%が物価安定目標だからですね。2%より低いところでは、赤い線は上がってほしかったわけです。
(出所)野村證券市場戦略リサーチ部作成
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ところが、現状は右側の図に移ってきつつあります。こちらの図では基調的インフレ率は青い線で示していますが、これが既に2%に到達しています。そうすると、基調的インフレ率がこれまでと同じスピードで上昇すると2%を突き抜けてしまいますので、それを止めるため少し強めの利上げをしなければならないのが、今の日銀が置かれているポジションということになりつつあると見ています。
これから実際行われそうなこととして、左側の図に比べて右側の図は、利上げの間隔が短くなっているのがおわかりいただけると思います。2026年の利上げが3ヶ月ペースに加速したと述べましたが、現状はこの3ヶ月ペースでの利上げが続きそうであり、野村證券のメインシナリオとしてもこちらの記事の通り、追加利上げのタイミングを「2026年12月、2027年3月」、ターミナルレートの予想を1.75%と見ています。ただ、あくまでリスクシナリオではありますが、政策金利が1.75%よりも引き上げられていく可能性にも注意が必要です。
コアCPIインフレ率は再加速の見込み
- インフレが2%の物価安定目標を超えてどんどん進まないように注意して見ていくということですね。
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はい、特にインフレという観点だと、足元から年末にかけて改めてインフレ率が加速しそうな状況もあります。日本の物価の代表的指標であるコアCPI(消費者物価指数)インフレ率を見ると、ロシアのウクライナ侵攻が起こった2022年や2023年頃はエネルギーや食料の価格が上昇してインフレとなり、2025年頃も米価格の上昇を受けてかなり高い局面が続きました。
2026年はぐっと下がってきて、足元では2%を切るようなところに来ていますが、野村證券としては、ここからかなり可能性が高い展開としてインフレ率が加速していくと予想しています。特にエネルギーについては、トランプ米政権が2月にイランを攻撃し、その後は世界的にエネルギーの供給に問題が生じました。これが今年の年末から来年の前半にかけて効いてくるでしょう。日銀としても、物価は2%にとどめるための努力を強めるタイミングになってきていると見ています。
(注)コアCPIは生鮮食品を除く総合、総務省版コアコアCPIは食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合、コア食料は生鮮食品及び酒類を除く食料を指す。2014年4月、2019年10月の消費税率引き上げ及び、2019年10月からの幼児教育無償化、2020年4月からの高等教育無償化の影響を除く。2026年8月以降は野村予測。2027年4月より食料品(酒類、外食除く)の消費税率が現行の8%から1%に引き下げられることを想定。コアCPIインフレ率への影響は-1.3%pt程度と試算。
(出所)総務省資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成
利上げと金融環境の関係
- つまり、インフレを抑えるために日銀が積極的な対応に入るということですか。
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はい、インフレ率を抑えるのは日銀のいちばん大きな使命ですので、自然なことではあります。加えて、日銀には変化の兆しもあります。キーワードは「金融環境」という新しい言葉です。ここまでは、日銀がインフレ率を2%に抑えるという観点で利上げをする、しない、またはペースが速い、遅いという話でしたが、来年の中頃以降、おそらく基調的インフレ率は概ね2%程度で安定してくると見ています。その状態でも利上げを続けるのかどうかというのが1つの論点になるでしょう。
9月会合で1人の委員から面白い意見が出ました。「物価が今後も2%目標と整合的に推移し、金融環境が依然緩和的であれば、引き続き、利上げによって緩和度合いを調整する必要がある」という内容で、要するに物価が2%で安定していても、金融環境が緩和的な場合は利上げを続ける必要があるということです。
(出所)日本銀行資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成
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金融環境とは、植田和男総裁の記者会見での発言によると、金利、銀行貸出、株価や為替などを含む資産市場に大別されます。
金利が低すぎれば経済に刺激効果があるため、インフレの上振れリスクになります。これは伝統的な金融政策の議論に沿った考え方ですね。
銀行貸出も重要です。金利が高ければ銀行貸出は減速するのが自然ですが、バブル期のように伸び続けるような場合もあり得ます。当時は金融環境が緩和的だったと言えるでしょう。
資産市場も同様です。株高は投資家にとって資産増加を意味しますから、いわゆる資産効果を通じて景気刺激効果を持ちます。また、株式発行をして資金調達する企業にとっては、少ない議決権の追加発行で大きな資金調達が出来るわけですから、これもある種の緩和的な状況と言えますね。為替、とくに円安米ドル高にも緩和的な側面があります。輸出で稼いだ米ドルを円に換える際に、より大きな円建て支払いを受けられる点は、円建て資金の利用可能性を高める点で緩和的です。
以上を踏まえると、たとえ政策金利が中立金利と推計される水準、例えば1.75%まで到達したとしても、それで利上げ局面が終わるとは限らないことが分かると思います。政策金利を上げながら、金融環境を中立水準に近づけていくことが求められるなかで、政策金利が1.75%を超えていく展開にも注意が必要でしょう。このようなことが9月会合で意見の1つとして出てきたわけです。
金融環境が緩和的であることの問題点
- 日銀が利上げするタイミングで、金融環境という新しい考え方を重視するようになったのですか。
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金融環境という言葉は突然出てきたように感じられるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。日銀自身も、かなり早い段階から「金融環境」という言葉は使ってきました。また、グローバルにみても、中央銀行が金融環境を念頭に政策運営すべきではないか、との議論は既に登場しています。この話題について、特に最近の題材となったのが2020年代の米国です。2020年代というのは、コロナ禍があり、その後ウクライナ紛争があり、グローバルにインフレが進展しました。それに合わせて米国のFRB(米連邦準備理事会)は、次の図で示した赤い線のように、過去に例を見ないほどに政策金利を急激に引き上げていきました。
(出所)Bloombergより野村證券市場戦略リサーチ部作成
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2010年代後半の利上げペースはゆっくりとしてなだらかな山という感じですし、グリーンスパン氏がFRB議長を務めていた2004年頃と比べても、今回は本当に崖のように大きく上がっていったわけです。2022年ごろからの米国金利は、短いところの金利が高くなって長いところの金利が下がる「逆イールド」の状況になり、政策金利を上げすぎて景気後退に陥って行くのではないかという懸念も出ましたが、振り返ってみると米国は景気後退に陥りませんでした。
その理由を示したのが、シカゴ連銀による金融環境指数です(図表の灰色の線)。灰色の線が上に行くほど資金繰りなどが苦しい、すなわち金融が引き締め状態にあることを表します。2022年以降の利上げサイクルの当初は、FRBの利上げに合わせて金融環境も引締め方向に変化しました。ところが、利上げサイクルが終わる前から灰色の線は横ばいになり、2023年には低下に転じています。政策金利を引き上げても、金融市場はむしろ緩和的な方向に傾いてしまったのです。
金融環境が緩和的な状況では、経済活動にブレーキを掛けるのは困難です。政策金利だけで中央銀行の政策を考えるのではなく、銀行貸出や資産市場を含めた金融環境全体を視野に入れて政策運営を行うことが大切ということですね。もちろん、このことだけが理由ではありませんが、米国は現在でも目標を超えるインフレ率に悩まされる状態が続いています。金融環境を緩和的な状態から中立的な状態にしていかないと、利上げの効果がしっかりとは出てこないわけです。金融環境を中立に近づけるということは、「金融政策が経済・物価にしっかりと効くようにする」こととも言えるでしょう。2%で物価を安定させたい日銀にとって、利上げ/利下げの効果がしっかりと出る状態まで金融システムを正常化することは重要な課題と思います。再びデフレに陥るリスクを限定するためにも、同様のことが言えます。
金融環境を意識した金融政策というトピックは、まだ日銀の中では萌芽的な段階にあると思います。しかし、学界の議論や海外での経験などを踏まえれば、徐々に重要度を増す話題ではないでしょうか。いきなり政策運営の核に金融環境が置かれるとまでは思いませんが、金融環境の状態を考慮した政策運営が行われる可能性は十分にあると思います。
- 日銀が利上げペースを加速させる中で、新たな課題にも目配りしていかないといけないわけですね。では個人投資家はどのような心構えをしておけば良いのでしょうか。
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はい、中央銀行が政策金利を引き上げるというのは、教科書的な経済学でいうと、景気の押し下げ要因ということになります。また、株にとっても株価を下げる要因だというふうに一般的には理解されるわけです。ただ、一番重要なことは、日銀は金融引き締めをして景気を冷え込ませたいということではなく、あくまでインフレを2%にして、ある種中立的な状態にし、金融環境についても押し下げるのではなくて中立にするということですので、過度に金融市場で懸念をする必要はないだろうということです。ただし、まだまだ外的な環境が落ち着かない中で見方が定まらないとは思いますので、もう一段政策金利の目線が上がっていくということのリスクにも注意が必要ということになるでしょう。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎 康平 - 2009年に野村證券入社。シカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得(2016年)。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。
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