2026.11.02 NEW
日銀、基調インフレ2%到達と判断 野村證券は12月追加利上げのメインシナリオ維持 野村證券・森田京平
撮影/タナカヨシトモ(人物)
日本銀行(日銀)は2026年10月30日の金融政策決定会合で、政策金利の据え置きを決めた一方、重視してきた基調的な物価上昇率が2%に到達したとの判断を示しました。日銀が2013年に2%の物価安定目標を導入して以来、約13年で節目を迎えたことになります。決定会合のポイントや野村證券の日銀シナリオについて、野村證券金融経済研究所チーフ・エコノミストの森田京平が解説します。
10月金融政策決定会合:政策金利据え置き、ETFの売却ペース引き上げ
- 今回の金融政策決定会合は、基調的なインフレ率に対する日銀の到達判断が市場で注目されました。まず決定内容を教えてください。
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日銀は10月30日、金融政策決定会合(以下、決定会合)を終えました。政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物)の誘導水準は「1.25%程度」で据え置かれました。市場予想に沿う決定であり、サプライズはありません。前回9月決定会合での利上げに続く「連続利上げ」は回避されました。
高田創審議委員が据え置きに反対した結果、今回の据え置きは賛成8、反対1での決定となりました。高田委員は「基調物価が『物価安定の目標』に達した中、(中略)中立金利に近づけるペースを速める新たな局面に入った」として利上げを提案しました(否決)。提案理由はあくまで、「中立金利に早く近づくため」であって、「中立金利を上回るため」ではない点は指摘しておきたいです。つまり、高田委員は金融緩和度合いをより速く調整することを念頭に置いているのであって、政策金利を引き締め的な領域まで引き上げることを求めているわけではありません。
(注)日銀は2013年1月に、「物価安定の目標」を「持続可能な物価の安定と整合的と判断する物価上昇率」とした上で、「CPI(消費者物価指数)の前年比上昇率2%」と定めた。
また、政策金利の決定とは別に、日銀は保有するETF(上場投資信託)の売却ペースを速めることも決定しました。2027年1月から、ETFの売却ペース(簿価ベース)を年間3,300億円程度(市場全体の売買代金の0.05%程度)から、年間8,600億円(同0.1%程度)に引き上げます。その結果、ETFの売却完了に要する期間は、約112年から約43年に短縮されます。
展望レポート(1):経済・物価見通しの大枠は変わらず
- 10月は「展望レポート」も同時に公表されるタイミングですが、どのような経済・物価見通しが示されましたか。
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会合後、日銀は「展望レポート」(経済・物価情勢の展望)を発行しました。今回の展望レポートでは、実質GDP(国内総生産)が2026年度上方修正、2027年度下方修正となりました。コアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)は2027年度が上方修正されました。総じて、経済・物価見通しの大枠は変わっていません。
| 実質GDP | 消費者物価指数 (除く生鮮食品) |
|||
|---|---|---|---|---|
| (参考) 消費者物価指数 (除く生鮮食品·エネルギー) |
||||
| 2026年度 | +0.7~+0.8 <+0.7> |
+2.4~+2.6 <+2.5> |
+2.4~+2.5 <+2.4> |
|
| 2026年7月時点の見通し | +0.6~+0.7 <+0.6> |
+2.3~+2.7 <+2.5> |
+2.3~+2.6 <+2.5> |
|
| 2027年度 | +0.6~+0.8 <+0.7> |
+2.4~+2.7 <+2.6> |
+2.4~+2.7 <+2.7> |
|
| 2026年7月時点の見通し | +0.7~+0.8 <+0.8> |
+2.2~+2.5 <+2.4> |
+2.2~+2.7 <+2.6> |
|
| 2028年度 | +0.7~+0.9 <+0.8> |
+2.0~+2.1 <+2.0> |
+2.2~+2.4 <+2.3> |
|
| 2026年7月時点の見通し | +0.7~+0.8 <+0.8> |
+2.0~+2.2 <+2.0> |
+2.1~+2.3 <+2.2> |
|
(注)値は、前年度比%。<>内は政策委員見通しの中央値。「大勢見通し」は、各政策委員が最も蓋然性の高いと考える見通しの数値について、最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものであり、その幅は、予測誤差などを踏まえた見通しの上限・下限を意味しない。各政策委員は、既に決定した政策を前提として、また先行きの政策運営については市場の織り込みを参考にして、上記の見通しを作成している。
(出所)日銀資料より野村證券経済調査部作成
(注)コアCPIは生鮮食品を除く消費者物価指数。横軸は展望レポートが発表された時期を表す。
(出所)日銀資料より野村證券経済調査部作成
展望レポート(2):基調的な物価上昇率が2%到達、12月利上げを示唆か
- 展望レポートの内容はどのように読み解けば良いのでしょうか。
-
今回の決定会合の焦点は展望レポートにありました。特に、(1)基調的な物価、(2)物価のリスクバランス、(3)利上げが続く中での金融環境、(4)金融政策運営姿勢についての評価・記述が焦点でした。以下に見る通り、これら4つの焦点は総じて、次回12月会合(12月17-18日)での利上げを正当化します。
第1に、基調的な物価の評価です。今回の展望レポートで、日銀はCPIの基調的な上昇率が「『物価安定の目標』と概ね整合的な水準となっており、先行きも同程度で推移する」と評価しました。上述した通り、日銀が現行の形で「物価安定の目標」を設定したのは2013年1月です。したがって今回の展望レポートは、物価の基調が13年9ヶ月かけて、この目標に到達したことを意味します(ただし、この「到達」は同目標の「達成」を意味するわけではないと植田和男総裁は会合後の会見で述べました)。植田総裁によると、展望レポートは、この「2%到達」という評価を含めて、全員一致で決定されました。
第2に、物価のリスクバランスです。今回の展望レポートで、日銀はCPI見通しのリスクバランスを「上振れリスクの方が大きい」と、4月、7月の展望レポートと同様の評価をしました。なかでも、基調的な物価上昇率については、「2%の『物価安定の目標』を超えて上振れていくリスクがある」としました。これは6月の決定会合で使われ始めた表現です。このリスク評価の下、日銀は6月、9月に利上げをしました。今回もこの表現が維持されたことは、次回12月会合での利上げを正当化する根拠となりうるでしょう。
第3に、政策金利が引き上げられる中での金融環境の評価です。日銀は、実質金利が短期ゾーンを中心になお低い水準にあること(前回7月レポートでは「中短期ゾーンを中心にマイナスになっている」とされていました)、企業全体の収益性と比べた時に金利コストが十分低いこと、金融機関の貸出態度も引き続き積極的であること、などに触れた上で、「金融環境は緩和した状態が維持されている」との評価を据え置きました。現行の利上げ局面が金融緩和度合いの調整を目的としていることを踏まえると、こうした金融環境の評価も、次回12月会合での利上げ余地を示唆します。
第4に、日銀の金融政策運営姿勢です。展望レポートで日銀は、今後の金融政策運営について「基調的な物価上昇率を2%程度の水準で安定させていくという観点が重要になる」との姿勢を維持しました。
野村の金融政策見通し:「2026年12月、2027年3月」の利上げをメインシナリオとして維持、「2つの到達」後の2027年度は「データ次第」(data-dependent)の政策運営へ
- 基調インフレの2%到達判断などを踏まえ、次回12月会合で追加利上げを決める可能性があるとわかりました。
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はい。今回の決定会合を受けて、野村證券は「2026年12月、2027年3月」の追加利上げというメインシナリオを維持します。この場合、政策金利は2027年3月の1.75%でターミナルレートに達します。また、緊迫した中東情勢の長期化、円安の進行など、物価の上振れリスクが想定よりも長引くケースを念頭に、「2026年12月、2027年3月、2027年6月」の3回の追加利上げをリスクシナリオとして維持します。
野村證券がターミナルレートを見極める際、焦点は、「1.75%」という金利水準ではなく、「2027年3月」というタイミングにあります。野村は、コアCPIが2027年1-3月期にかけて「加速期」、その後1年ほど「減速期」、その後の「安定期」という3つの局面をたどると見ています。このうちの「加速期」が終わるタイミングで、物価の上振れリスクを意識した利上げの必要性も下がるでしょう。この「加速期」が終わるタイミングが「2027年3月」に当たります。ここに「3ヶ月に一度」のペースでの利上げを想定すると、結果的にターミナルレートは1.75%になります。
なお、「1.75%」という政策金利の水準は、日銀が参照する中立金利の推計レンジ(1.1~2.5%)のほぼ中心に位置します。つまり、野村のメインシナリオに沿って利上げが進むと、2027年3月(2026年度末)には、(1)基調的な物価上昇率が2%に到達(今回10月会合で実現)、(2)政策金利が中立金利の推計レンジの中心値に到達、という「2つの到達」が実現します。
この「2つの到達」に至った後、つまり2027年度に入ってからの金融政策は、現行の「3か月に一度」というカレンダーベースの運営から、「データ次第」(data-dependent)の機動的な運営に移ることになるでしょう。「2026年12月、2027年3月、2027年6月」の追加利上げを想定する野村のリスクシナリオは、結果的に、2027年度入り後も「3か月に一度」の利上げペースを維持している形になります。しかし、2027年度入り後の政策運営は、あくまでCPIの評価に基づく「データ次第」であることを強調しておきたいです。
- 野村證券 金融経済研究所 チーフ・エコノミスト
森田 京平 - 1994年九州大学卒業、野村総合研究所入社。英国野村総研ヨーロッパ、野村證券金融経済研究所を経て、バークレイズ証券(2008~2017年)およびクレディ・アグリコル証券(2017~2022年)にてチーフ・エコノミストを務めた。2022年7月より現職。2000年米ブラウン大学より修士号(経済学)、2018年九州大学より博士号(経済学)を取得。共著に『人口減少時代の資産形成』(東洋経済新報社)、『現代金融論 新版』(有斐閣)など。
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