2026.10.29 NEW
FOMCは金利据え置き、12月に追加利上げか 雇用とインフレで利上げリスク続く 野村證券・小清水直和
撮影/タナカヨシトモ(人物)
2026年10月27~28日に開かれたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、政策金利の据え置きが決まりました。一方、クック理事ら2人は利上げを主張し、インフレへの警戒感も示されました。12月の追加利上げの可能性や、今後の米金利の動向をどうみればよいのでしょうか。野村證券の小清水直和シニア金利ストラテジストが解説します。
クック理事の利上げ票はサプライズ、12月ドッツ上方修正の可能性
政策金利の据え置きが賛成10、反対2で決まりました。反対したクック理事とクリーブランド連銀のハマック総裁は、25bp(ベーシスポイント)の利上げを主張しました。特に、クック理事の利上げ票は予想外でした。従来は中道からハト派の立場だった同理事は、直近のCPI(消費者物価指数)の上振れを受け、9月会合時点よりもタカ派に傾いた可能性があります。12月会合で、来年のドッツ(政策金利見通し)が上方修正されるリスクが高まったといえます。
景気判断が上方修正、成長率は潜在的なペースを上回っているか?
声明文では、景気拡大への評価が「堅調(solid)」から「強い(strong)」に上方修正されました。経済成長が、インフレに対して中立的な潜在成長ペースを上回っているとの解釈もできる表現です。ただし、ウォーシュ議長は、現時点ではFOMC参加者のほとんどがそうした見方に否定的だと指摘しました。一方、「インフレは高止まりしている」との評価は維持されました。FOMCは当面、二重の責務のうち、雇用の下支えよりもインフレ抑制を重視し続けると予想されます。
前回9月会合で利上げを決めた際の「利上げの決定はインフレの2%目標へのより速い回帰を(timelier)支援する」との文言は、「さらなる情報の蓄積により、インフレの2%目標への速い回帰にとって(timely)適切な政策姿勢が決定される」に変更されました。「より速い」から「速い」への変更は、今回の政策据え置きと整合的です。一方、「さらなる情報の蓄積」との表現は、雇用やインフレが大幅に減速するなどの変化がない限り、FOMCが12月の利上げを念頭に置いていることを示唆しているようにもみえます。ただし、「行動する」など、利上げをより強く示唆する表現に比べれば、今後の政策決定には不透明さが残ります。
ウォーシュ議長は金融環境引き締まりを認識
ウォーシュ議長は、記者会見で、9月の利上げ決定以降にクレジットスプレッドが拡大するなど、金融環境が引き締まった旨を述べました。さらに、市場のインフレ期待が正しい方向に動くなど良い兆候が見られた点が心強い旨も述べました。一方、直近公表分のCPIが高めの伸びとなったことについて言及がありませんでした。9月会合時点で金融環境が引き締まっていないと述べていたことと比較して、利上げに対して積極的な姿勢が和らいだと言えます。10月28日の米国市場では、こうした見解が想定よりもハト派的と捉えられ、インフレ期待が上昇することでかえって長期金利が上昇した面もあったと推察されます。
ただし、ウォーシュ議長は金融環境が大幅には引き締まっていない点や、金融環境の引き締まりは想定通りである点も述べたことから、当面は利上げを行う方針と見込まれます。「物価安定は達成できていない。物価安定に引き続き取り組み続ける」「治療薬は幾分働き始めたが、確実な終わりには至っていない」といった表現からも、依然として利上げが必要と考えている様子が窺えます。
12月に追加利上げか 底堅い雇用とインフレで利上げリスク続く
野村證券米国拠点は、12月に追加利上げを実施した後、2027年以降は政策金利を据え置くと予想しています。雇用の増加数が潜在的なペースとされる月0~5万人前後以下に、インフレ率が前月比+0.2%前後以下に減速すれば、利上げは停止するとみられます。ただし、雇用とインフレが底堅く推移する間は、利上げリスクが残りやすいと考えられます。FOMCは金融ショックを回避しつつ、インフレ抑制を目指す方針と見込まれます。利上げが続く間は、非AI企業や、AI企業の中でも資金調達意欲を急速に強めている企業や、相対的に金利に敏感な企業などで、悪影響が断続的に強まると想定されます。
9月の利上げ以降、市場では様々な調整が生じました。もっとも、FOMCが金融環境の緩和状態は十分に解消されたと判断するには、なお距離がありそうです。S&P500が30日間で10%以上下落すると、FOMCは利上げの停止や利下げへの転換に動く傾向があります。ただ、現状のS&P500の下落率は、同期間で1%未満にとどまっています。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
今年はAI投資と減税法が景気の2大けん引役となってきました。来年は、この2つの要因による押し上げ効果が次第に弱まると予想されます。これを受けて雇用とインフレの減速傾向が鮮明になれば、利上げ停止の確度が高まるとみられます。ただし、実際に減速する時期には不確実性があります。足元では、GPUレンタル価格指数やAIトークン需要指数など、AIの実需を示す指標は、依然として高止まり、あるいは上昇しています。一方、家計への税還付の時期は既に終わっており、原油高の影響が個人消費の減速として表れるか、注意が必要です。この点、11月3日の中間選挙で、上下院のいずれか、または両院で民主党が勝利すれば、追加財政措置の可能性は大きく低下し、来年以降の景気は減速しやすくなると見込まれます。
米長期金利の目先的な低下余地は限定的 金利上昇が再燃するリスクも
雇用とインフレが底堅く推移する間は、米10年金利の低下余地は限られ、むしろ金利上昇が再燃するリスクがあります。米10年金利は、政策金利の到達点に対する市場の予想を示す3年先1ヶ月金利との連動性が高い傾向にあります。12月の利上げ後に政策金利を据え置くシナリオが織り込まれれば、3年先1ヶ月金利は4.25%まで低下すると見込まれます。過去の相関を前提にすると、この場合でも米10年金利は4.9%までの低下にとどまると試算されます。
(注)2026年以降のデータ。青丸は直近付近のデータ。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
一方、来年、雇用とインフレの減速が明確になり、市場が利上げ停止や利下げを織り込むことで、3年先1ヶ月金利が3%台まで低下すれば、米10年金利は4%台前半まで低下すると試算されます。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 シニア金利ストラテジスト
小清水 直和 - 米国市場を担当。経済・金融政策・政治といったファンダメンタルズに、投資家ポジション・規制動向といった需給要因を加味し、金利見通し・投資戦略を提供。2007年野村證券入社。2007~2010年日本経済エコノミスト、2011年より金利ストラテジーを担当。2013~2015年在英日本大使館経済専門調査員。2015年より現職。
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