2026.10.23 NEW
10-12月期の国内景気を展望 伸び悩む個人消費、景気回復のカギは設備投資 野村證券・伊藤勇輝
撮影/タナカヨシトモ(人物)
原油価格の高止まりが続いており、コスト増が企業や家計の支出に与える影響が注視されています。7-9月期の国内景気の状況と今後の設備投資・個人消費の見通しについて、野村證券経済調査部の伊藤勇輝エコノミストが解説します。
7-9月期は自動車減産や悪天候などで個人消費が伸び悩み
7月から8月にかけて鈍さが目立ったのが個人消費です。GDP(国内総生産)ベースの個人消費と推計方法が近いCTIマクロ(総消費動向指数、実質値)は、4-6月平均から7・8月平均にかけて0.1%減少しました。日本銀行が公表する『消費活動指数』も、自動車や家電製品などが含まれる耐久財消費の弱さが目立ち、熊本地震の発生に伴う自動車減産の影響が表れたようです。
(出所)日本銀行資料より野村證券経済調査部作成
十分なデータは揃っていませんが、9月も個人消費は精彩を欠いた可能性が高いです。内閣府『景気ウォッチャー調査』によれば、同月は降水量の多さ、台風の到来などの天候要因が、多くの業態の景況感を冷え込ませました。同月のクレジットカード利用額も、財・サービスともに前月から減少しました。
| 地域 | 業態 | コメント内容 |
|---|---|---|
| 南関東 | 百貨店(総務担当) | 月間を通して天候が悪く、台風の影響もあり、食品、非食品共に来客数、客単価が前年を大きく下回る結果となっている。 |
| 南関東 | ゴルフ場(経理担当) | 9月は台風によるクローズ、若しくはクローズには至らなくとも降雨の影響により著しく稼働率が下がっている。 |
| 東海 | コンビニ(店長) | 9月は雨の日が多く、気温も低めで飲料やアイスクリーム類の売上が悪く、売上全体も大きく減少した。 |
| 近畿 | 家電量販店(企画担当) | 新たな省エネ基準の導入によるエアコンの特需も落ち着き、ヒット商品もなく長雨続きとあって、来客数が激減している。 |
| 地域 | 業態 | コメント内容 |
|---|---|---|
| 北関東 | 一般機械器具製造業 (経営者) |
前期の設備投資は慎重だったが、下期に向けての増産対応、ライン改造に予算を付ける企業が複数出てきている。 |
| 東海 | 公認会計士 | 金利上昇の影響もあり、法人が積極的な設備投資を控える傾向にある。 |
| 中国 | 金融業(主任) | 取引先では受注回復や設備投資の動きが見られ、景況感はやや改善している。 |
(出所)内閣府資料より野村證券経済調査部作成
野村證券では、7-9月期の実質個人消費(GDPベース)を前期比-0.2%と慎重に予測しており、周辺統計の動きはこれと整合します。消費の伸び悩みが一因となり、同四半期の実質GDP成長率(野村予測:前期比年率+0.1%)は、4-6月期(実績:同+1.4%)からの低下を避けがたいと見てよいでしょう。
AIブームや省力化投資が設備投資回復のドライバーに
10-12月期に目を移すと、輸出や設備投資、政府消費などの増加に支えられ、実質GDPは前期から増加すると野村證券では予想しています。
GDPベースの設備投資に対し、1~2四半期ほど先行する傾向がある機械受注(民需)は、振れを伴いつつも8月にかけて底堅さを増しています。需要者別に見ると、電気機械製造業からの受注を中心に力強いです。電気機械製造業の生産工程で用いられる半導体製造装置の国内向け供給には、更なる伸びしろを期待できるでしょう。
(出所)内閣府資料より野村證券経済調査部作成
このほか、自動車・同付属品製造業からの受注も、2026年に入り増加が続いています。機種別に見ると、「産業用ロボット」の受注などが上向いています。自動車の生産ラインなどで、人力に依存しないための自動化が進められている可能性があります。先行きを展望すると、(1)グローバルなAIブーム、(2)人手不足対応に向けた省力化投資などが、設備投資の回復に「軸」を提供すると野村證券では見ています。
インフレの広範化が実質消費をさらに下押しするリスク
一方、実質個人消費は10-12月期も伸び悩む公算が大きく、目先の景気の足枷となるでしょう。主因としてコストプッシュ・インフレが挙げられます。(a)原油の入着価格の動き、(b)電力・ガス会社による電気代・都市ガス代の算定方法(使用月から遡り3~5ヶ月前の原燃料価格を参照)を踏まえると、エネルギー価格は2026年末にかけて上昇するでしょう。
加えて、インフレ圧力はエネルギー以外の品目へ広範化する余地があります。日銀版コアコアCPI(消費者物価指数:生鮮食品・エネルギーを除く)に含まれる品目のコスト構造を踏まえて試算した「合成コスト指標」(試算方法は下記図表の注釈参照)は、日銀版コアコアCPIに対し、6ヶ月程度先行する傾向があります。
(注)日銀版コアコアCPIは、生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価指数(特殊要因を除くベース)です。「合成コスト指標」は、日本銀行「企業物価指数(CGPI)」及び「企業向けサービス価格指数(SPPI)」、内閣府「産業連関表(2024年)」を用いて試算しています。産業連関表の各投入部門に対応するCGPI・SPPI系列を、産出部門の取引額に占める投入部門別のシェアを用いて加重平均し、「合成コスト指標」を算出しています。図中では、両系列のラグを考慮し、「合成コスト指標」を6ヶ月先行させて表示しています。
(出所)内閣府、総務省、日本銀行資料より野村證券経済調査部作成
足元までの「合成コスト指標」の動きは、日銀版コアコアCPIで見たインフレ率が2027年1-3月期にかけて上昇する可能性を示唆しています。インフレ圧力の広範化が、家計の購買力の低下を介して実質個人消費を一層下押ししやすくなるリスクには、留意が必要です。
このように、10-12月期の日本経済を企業と家計の支出の観点から展望すると、設備投資が上向きの力を維持しつつ、個人消費の下振れリスクと綱引きする様子が浮かび上がります。野村證券は前者の力の方が強いと見ていますが、景気評価の緊張度は増しています。
- 野村證券経済調査部 エコノミスト
伊藤 勇輝 - 2020年早稲田大学政治経済学部卒業後、野村證券入社。経済調査部へ配属後、一貫して日本経済の分析・見通し作成に従事。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。
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