2026.11.05 NEW
米国中間選挙で民主党躍進 経済政策、2028年大統領選挙、対外政策への影響 野村證券・吉本元
写真/タナカヨシトモ(人物)
11月3日(米国時間)に行われた米国中間選挙では、上下院とも民主党が過半数を獲得する見込みです。民主党の大勝といえる結果を受けて、今後の経済政策、2028年大統領選挙、対外政策にどのような影響があるか、野村證券地政学・政治アナリストの吉本元が解説します。
民主党が上下院の過半数を占める結果に
11月3日、米国で中間選挙(議会選挙)が行われました。改選前は共和党が上下院とも過半数を占めていましたが、上下院とも民主党が過半数を獲得する見込みです。同時に行われた州知事選挙(50州のうち36州が改選)でも、改選前は共和党の州知事が26州でしたが、日本時間5日朝時点で共和党の州知事は12州、民主党の州知事は22州が当選確実となりました(残り2州は確定前)。非改選を含めると民主党の知事は28州と過半数を超えています。
事前の各調査機関による議席予測では、下院で民主党が過半数を獲得することは予想されていましたが、上院については、民主党が過半数を獲得するか、共和党が過半数を維持するかで見方が分かれていました。事前予測を上回る民主党の躍進と言えます。中間選挙で当選した議員による議会(第120議会)は、2027年1月3日に招集されます。ホワイトハウスと上下院の過半数を占める民主党との意見が折り合わず、トランプ政権のレイムダック化は避けられないでしょう。
中間選挙後に民主党主導でAI規制が強化される可能性は限定的
中間選挙の結果による影響として、経済政策、2028年大統領選挙、対外政策の3点が考えられます。
まず、経済政策への影響として、株式市場を中心に、民主党主導でAI(人工知能)規制が強化されると予想する見方があります。しかし、法案を提出しても、上院で民主党が60議席以上を握るわけではないため、少数派となった共和党による議事妨害を阻止できません。また、トランプ大統領が拒否権を行使することも可能です。中間選挙の勢いを受けて2028年大統領選挙で政権交代が起こり、大統領と上下院を民主党が占めた後の議論になるでしょう。
その場合でも、共和党が上院で拒否権を行使するため、法規制よりも、既存の法制度の下で大統領令や、反トラスト法に基づく連邦取引委員会(FTC)、通信を監督する連邦通信委員会(FCC)を通じて規制を強化する方向になるでしょう。
データセンター建設は州知事の判断、党派性は高くない
データセンター建設に関する最終的な権限は、連邦政府ではなく州政府にあります。ただし、民主党の州知事は規制に積極的で、共和党の州知事は容認しやすいと考えるのは誤解です。
データセンターは、公共インフラである電力や水資源を大量に使用するため、住民や地元企業に悪影響を及ぼすとの見方があります。このため、州によっては建設許可が難航しています。現在、許可を一時停止しているのは15州です。11月3日の州知事選挙前の段階では、共和党の知事が9州、民主党の知事が6州であり、党派的な傾向は見られません。
電力や水資源の利用を差し引いても、州に税収をもたらす点を重視する州がある一方、製造業と異なり雇用をほとんど生まない点を懸念する州もあります。対応は州によって異なるでしょう。
歳出削減、財政再建は困難に
経済政策への影響は、基本的に政策決定の難航という形で表れると見込まれます。第一に、財政政策への制約です。大統領予算教書を反映した歳出法案の成立や、共和党主導による財政赤字削減は困難になるでしょう。
現在、2027会計年度(2026年10月~2027年9月)の予算は、12月11日までの暫定予算となっています。年内は、改選前の状態で、上下院とも共和党が過半数を占める議会が続きます(通称「レイムダック・セッション」)。共和党は、2027年以降の議会情勢を踏まえ、イラン戦費を計上した歳出法案を年内に成立させようとするでしょう。
来年前半の連邦債務法定上限問題に注意
第二に、2027年前半には連邦債務の法定上限引き上げが課題となります。法定上限は41.1兆米ドルで、9月末時点の連邦債務残高は40兆米ドルに達しています。法的な対応が行われず、連邦債務残高が法定上限に達した場合、米国債の新規発行が停止します。既発国債の償還資金を調達できず、米国債のテクニカル・デフォルトを引き起こすおそれがあります。
法的対応が遅れれば、金融市場では米国債を担保とする金融取引が手控えられ、金利上昇、米ドル安、株価下落のリスクが高まります。共和党と民主党が金融市場のリスク回避に向けて合意できるかは不透明です。民主党が法的対応に際してさまざまな付帯条件を求めた場合、トランプ大統領が拒否権を発動するリスクにも注意が必要です。
FRBを巡る人事上の混乱に注意
第三に、トランプ大統領が人事を通じてFRB(米連邦準備制度理事会)をコントロールしようとする試みは、上院の承認採決(過半数で承認)で阻止されると見られ、混乱を招く可能性があります。
2027年9月には、ジェファーソン副議長が任期満了を迎えます。同副議長はバイデン前大統領に指名されたため、トランプ大統領が新たな候補を指名する可能性があります。ただし、ジェファーソン副議長は理事としての任期が2036年1月末まで残っており、理事にとどまる可能性があります。その場合、第1次トランプ政権で指名されたウォーラー理事が副議長に指名される可能性があります。この人事については、民主党の上院議員にも反対は多くないと見られます。
一方、パウエル前議長も理事として在任していますが、2028年1月に任期満了を迎えます。トランプ大統領は新たな候補を指名すると見られますが、上院で承認を得られず、理事の席が空席となる可能性があります。
「ポスト・トランプ」への流れ
次に、政治的影響として、2028年大統領選挙への影響が考えられます。上述の通り、中間選挙後はトランプ政権のレイムダック化が政局の姿となるでしょう。一方、2028年大統領選挙に向けた動き、すなわち「ポスト・トランプ」も金融市場で意識されるでしょう。
2028年大統領選挙の投票日は11月7日で、まだ2年先です。しかし、予備選挙は2028年1月に始まる予定であり、各党の候補者が出馬を表明するのは2027年になるでしょう。早期に出馬を表明し、選挙資金を集めることが候補者の課題となります。
そのため、2027年年央までに主要候補者が出そろい、各党で公開討論会(ディベート)が行われ、候補者の絞り込みが進む可能性が高いでしょう。主要候補者の人気や主張が明らかになるため、金融市場は2028年大統領選挙以降の政策変化を先取りするでしょう。
民主党の政策への注目(AI、税制、環境)
民主党が上下院で過半数を占めたことで、その勢いを受けて政権を奪還するとの見方もあります。大統領候補にはハリス前副大統領やニューサム・カリフォルニア州知事などの名前が挙がっていますが、情勢はまだ流動的で、他の候補者の出馬も予想されます。
上述したAI規制のほか、各候補者は富裕層や大企業への課税強化など、増税を提唱するでしょう。金融市場では、財政再建の一歩と評価される一方、景気抑制的と受け止められるでしょう。
民主党の産業政策の目玉は、バイデン前政権時のグリーン・ニューディールの復活でしょう。イラン戦争による原油高を踏まえ、脱炭素化によって石油依存を引き下げると主張すると見られます。具体的には、ソーラーパネル設置、電動車への補助金復活、環境産業支援などが考えられます。
ただし、トランプ減税などの廃止で得られる財源を財政赤字削減に用いず、グリーン産業への非効率な支出に充てる場合、債券市場が懸念を強める可能性がある点には留意が必要です。
バンス副大統領の地元オハイオでは上院、州知事とも共和党候補が敗れる
一方、共和党ではバンス副大統領とルビオ国務長官が有力候補と見られています。市場を揺るがせたトランプ大統領の財政赤字、関税政策、FRBの独立性軽視を引き継ぐのか、それとも是正を目指して市場を安心させるのかが焦点となるでしょう。
現職大統領が2期を務めた後には、政権側の次期大統領候補として副大統領が有力となるケースが多く、バンス副大統領が有力視されるのは間違いありません。しかし、バンス副大統領の地元であるオハイオ州では、上院選挙、州知事選挙ともに民主党が勝利しました。バンス副大統領は選挙に強くないとの見方が出てくるため、共和党の次期大統領候補を巡ってさまざまな観測が広がるでしょう。
ルビオ国務長官の地元であるフロリダ州では、上院議員選挙、州知事選挙とも共和党候補が勝利しています。
イラン再攻撃を巡る不透明感、APEC首脳会議はイラン再攻撃の抑止要因となり得るか
最後に、対外政策としてイラン戦争が挙げられます。中間選挙が終わったため、有権者向けに原油価格へ配慮する必要性は低下しています。そのため、トランプ大統領がイランを再攻撃するかが注目されます。
トランプ大統領がどのような判断を下すかは不透明ですが、目先の外交イベントとして、11月18、19日にAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議が中国・深圳で開催されます。トランプ大統領は訪中し、習近平・中国国家主席やプーチン・ロシア大統領と会談すると見込まれるため、イランについても議論されるでしょう。そのため、判断はAPEC首脳会議の後になると考えるのが合理的です。
ただし、中国もロシアもイラン戦争では仲介国として振る舞っておらず、むしろイランを陰ながら支援しているとの指摘が米政府内でも出ています。中国もロシアも、イラン再攻撃には賛成しないでしょう。
中間選挙を控えていたため、トランプ大統領は米国の農産品などの輸入拡大の約束を得る目的で、習近平・国家主席を9月の訪米時に厚遇しました。また、原油価格やディーゼル燃料価格を引き下げるため、ロシアに対する経済制裁を一部解除していました。しかし、中間選挙後も同様の姿勢を続けるかは不透明です。したがって、中国やロシアとの関係が、イラン再攻撃の決断を大きく左右するとは限らない点に留意が必要です。
2028年大統領選挙で共和党候補が苦戦しないよう、トランプ大統領はイラン戦争の解決を図ると見られます。イランが交渉を長引かせ、2028年大統領選挙後に次期政権と協議しようとする姿勢を明らかにする場合、中間選挙直後ではなかったとしても、トランプ大統領がイランへの再攻撃に踏み切る可能性は低くないでしょう。
イスラエルの今後の政局に注意
イランへの再攻撃には、イスラエルの参加が後押しになると見られます。10月27日のイスラエル総選挙では、連立与党が過半数に届きませんでした。野党連合とアラブ政党が連立政権を組む可能性は高くないと見られますが、2027年4、5月にも再選挙となった場合、現在、暫定首相としてとどまっているネタニヤフ首相の立場は流動的になります。そのため、トランプ大統領もイラン再攻撃について、比較的早期の判断を迫られるでしょう。
- 野村證券 金融経済研究所経済調査部 シニア・エコノミスト(政治・地政学調査)
吉本 元 - 1993年に野村総合研究所に入社し、経済調査部配属。1999年、東京大学大学院経済学研究科入学、2001年に経済学修士号取得。野村證券金融市場情報管理部、米国野村證券、野村證券金融経済研究所経済調査部を経て、2009年に外務省に出向し、在英国日本大使館に着任。2011年、野村證券金融経済研究所に帰任。国内外のリスク分析(政治政策、地政学リスク、政治動向など)を担当。
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