2026.10.30 NEW
米国で高まり続ける電力需要、インフラ支える中国企業の強みとは? 野村東方国際証券
米国で電力需要が高まり続けています。大手テクノロジー企業を中心に、AIの開発に欠かせないデータセンター向け投資などが増えているためです。こうした投資に欠かせない機器の多くを供給しているのは、実は中国企業。野村東方国際証券で電力設備・再生可能エネルギーリサーチヘッドを務めるアナリストの馬暁明によると、変圧器や電気制御・配電盤など、米国が輸入に頼る機器の多くを中国が直接的・間接的に供給しているとみられ、米国の電力インフラ市場で存在感を増しています。中国企業の強みはどこにあるのでしょうか。詳しく解説します。
(注)野村東方国際証券は中国を拠点にビジネスを展開する、野村グループの総合証券会社です。
米国で勢いを増す電力需要
- 米国ではデータセンター建設などによって電力需要が高まっていると聞きます。
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米国の電力コンサルティング会社「Grid Strategies」によると、2012~2024年の米国電力需要の年平均成長率は1.4%で、2010年代(0.6%)と比べて上昇しました。同社はこの動きがさらに加速すると見込んでおり、2025~2030年の成長率は3.7%に達すると予想しています。
(出所)Grid Strategiesのデータを基に野村東方国際証券作成
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また、実際に必要となる電力規模・容量を示す「電力負荷」という指標で見ても、2025~2030年は年平均成長率が3.7%と高い伸びが予想されています。際立っているのが10.1%のテキサス州(ERCOT、テキサス州電力信頼度評議会管内)です。
(出所)Grid Strategiesのデータを基に野村東方国際証券作成
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電力需要の拡大は、データセンターがけん引役になる見通しです。「Grid Strategies」は向こう5年間で166ギガワットの電力が追加で必要になると分析しており、その大半はデータセンター(90ギガワット)です。1ギガワットはおよそ100万世帯分の電力需要に相当するとされ、90ギガワットは全米の電力負荷の約1割を占める規模です。生成AIの普及などによりデータセンターは大型化・高度化の一途をたどっており、今後はとてつもない電力量が必要になるとみられます。
テキサス州は土地価格の安さや免税・優遇支援策、電力接続のしやすさなどを背景に他地域のデータセンター投資を吸収しており、電力負荷の成長率が相対的に高くなっています。
- 電力不足のリスクにはどう対策をしているのでしょうか。
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データセンターが十分な電力量を確保できないリスクは高まっています。そのため、データセンター事業者の間では、自社で発電設備を整える「オンサイト発電」を活用する動きが広がっています。ペンシルベニア州の発電所跡地に建設中で2027年までに稼働予定のデータセンターでは、敷地内に約4.5ギガワットを発電できるガス火力発電所の建設が計画されています。こうした計画は、ほかにいくつもあります。
- データセンター設備だけではなく、電力インフラに絡む投資も増えそうですね。
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はい。加えて、安定的な電力供給を維持するためには、再生可能エネルギーを送配電事業者の送配電網につなげる「系統接続」関連設備の設置や老朽化した送配電設備の改修など、さまざまな投資が必要になります。リサーチ会社の「BloombergNEF」によると、米国の電力インフラ投資額は2025年に1,150億米ドルに達したもようです。今後も増え続けるでしょう。
米国は、電力インフラに欠かせない機器のいくつかを海外からの輸入に頼っています。輸入額が大きい品目は変圧器と電気制御・配電盤で、2025年の輸入額はそれぞれ354億米ドル、217億米ドルにのぼりました。変圧器は電圧を上げたり下げたりする機器で、データセンターなどの需要家が利用できるよう、供給する電力の電圧を下げる役割などがあります。電気制御・配電盤は電力設備の安全な運用を確保しつつ需要家への電力供給を制御する機器であり、いずれもとても重要な役割を担っています。
対中関税の中、中国は第三国経由で輸出継続か
- 米国はどういった国から輸入しているのでしょうか。
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最も輸入額が多いのはメキシコです。毎年、変圧器の輸入額全体の20%前後を維持しています。このほか、タイやベトナムの存在感も高まっています。電気制御・配電盤の輸入額トップもメキシコで、そのシェアは40%に達します。2位以下はカナダ、ドイツと続きました。
(出所)Trade mapのデータを基に野村東方国際証券作成
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グラフを見ると、中国のシェアが年々低下しているように映っています。変圧器のシェアは2021年の25%から2025年には10%程度まで下がりました。電気制御・配電盤に関しても、11%あった2021年以降、少しずつシェアを落とし、2025年は6%弱でした。米国による対中関税の引き上げなどが響いているとみられます。
しかし、野村東方国際証券は、少し違った見方をしています。中国からの直接的な輸入は確かに減少していますが、各国の貿易関連の統計などを分析した結果、第三国を経由して輸入している可能性もあると考えています。変圧器のベトナムからの輸入額は2025年が23億米ドルと2021年(12億米ドル)と比べ約2倍に増えた一方で、中国のベトナム向け変圧器の輸出額は2025年が23億米ドルと、2021年(17億米ドル)と比べ増えています。中国製変圧器の一部がベトナムを経由して米国に輸出されているようです。
(出所)Trade mapのデータを基に野村東方国際証券作成
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電気制御・配電盤については、2025年のメキシコから米国への完成品輸出額が88億米ドルあり、中国からメキシコへの輸出額は、完成品が7.7億米ドル、原材料が26億米ドルでした。この流れを読み解くと、中国は電気制御・配電盤を米国に直接輸出するのではなく、中国からメキシコへ原材料を輸出し、メキシコで加工した完成品を米国へ輸出しているとみられます。
なぜ中国製品の需要が根強いのか
- なぜ対中関税の引き上げなど対立が深刻化してもなお、中国製品の需要が根強いのでしょうか。
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4つあると考えています。(1)充実したサプライチェーンと生産規模による優位性、(2)コスト優位性、(3)優れた納期対応力、(4)国際的に高い認知度です。
(1)充実したサプライチェーンと生産規模による優位性
変圧器を例に挙げます。変圧器は、一方向だけに磁力が向く方向性電磁鋼板、銅、電気を通しにくい絶縁材料を主な材料として作られます。中国ではそれらの生産から変圧器本体の組み立てまでできるサプライチェーンが形成されており、基本的には国内ですべての作業を完結できる体制が整っています。関連企業が同一の産業集積地域に集中しているだけではなく、原材料の調達から超高圧変圧器を含む完成品の生産までを一貫して手掛ける、「垂直統合型」の事業基盤を持つ大手企業も多いです。
そのため生産能力が高く、2025年の世界各国による変圧器輸出総額(1,762億米ドル)のうち中国は約30%を占めました。生産能力だけを見ると、世界の約60%を占めているとされています。
(2)コスト優位性
中国は人件費、エネルギーコスト、土地関連費用、周辺設備・サービスのコストが先進国と比べて低いです。生産能力の高さにコストの低さが加わることで、継続的な価格競争力が生み出されています。同等の性能を有する製品で比べると、中国製品の価格は欧米製品より約20%低くなっています。
(3)優れた納期対応力
中国企業の平均的な納期は約10~12ヶ月程度で、欧米企業(2~4年)よりもかなり短いです。生産能力の高さや経験豊富な技術者の存在、サプライチェーンの対応が迅速であることなどが、相対的な短納期の理由となっています。一方、欧米では各社が過去10年以上にわたり生産能力を大幅に拡張しておらず、中国と比べた納期の長期化につながっていると考えられます。
(4)国際的に高い認知度
UL、CE、IECといった、製品の品質や安全性に関わる国際的な認証規格を取得する中国企業が増えています。企業によっては、メキシコや東南アジアなどに現地生産拠点を設け、関税負担や地政学的リスクを回避する取り組みも進んでいます。すでに中東、アフリカ、東南アジア、ラテンアメリカなどの新興国市場では一定のブランド認知を獲得しており、優れたコストパフォーマンスと短納期を武器に、欧米市場でも存在感を高めています。
- 具体的に、どんな企業が米国市場に製品を供給しているのでしょうか。
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例えば、米国の変圧器市場に注力している企業として、データセンター向け変圧器や配電用変圧器を主力製品とする海南金盤スマートテクノロジー(海南金盤智能科技)があります。同社が手掛けるのは乾式変圧器という油を使用しない機器で防火性に優れており、屋内設置が多いデータセンターへの供給を増やしています。メキシコに工場を抱え、米国に輸出しています。また、同じ変圧器を手掛ける企業としてスーユエン・エレクトリック(思源電気)という会社もあります。同社はガス絶縁開閉装置や無効電力補償装置なども生産しており、変圧器に関しては東芝との合弁工場で生産し、米国に輸出しています。
- トランプ米大統領が就任して以降、対中関税の引き上げなどもあり、米中関係は良好とは言えません。米国向け事業の継続にリスクはありませんか。
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トランプ大統領は8月下旬、米国内の電力網で外国製機器の使用を一部禁止する「大統領令第14420」に署名しました。米エネルギー省は12月末ごろまでに具体的な規則を策定する方針です。今回の規制の影響は、主にデータセンターに及ぶと考えています。これまで米国のデータセンターでは、供給不足が深刻な変圧器を中心に、短納期に強みを持つ中国製機器が多く利用されてきました。こうした分野にまで使用禁止の影響が及ぶようであれば、中国企業の米国市場におけるシェアは低下する可能性が高いとみられます。
- 野村東方国際証券 電力設備・再生可能エネルギーリサーチヘッド
馬暁明(マ・シャオミン) - 2022年6月に野村東方国際証券に入社し、電力設備・再生可能エネルギー分野のリサーチヘッドを務める。電力設備、ロボティクス、太陽光発電、風力発電、リチウム電池および関連材料を主なカバー領域とする。
入社前は、2016年8月から2022年5月まで中国長城証券にて電力・再生可能エネルギーセクターのリサーチヘッドを務めた。証券業界に転じる以前には、国家電網、Wiscom、万向集団などでエンジニア、プロダクトマネージャー、シニアプロダクトマネージャーを歴任。産業界における研究開発・製品企画の経験と投資リサーチの知見を併せ持つ。
長年にわたる産業動向の分析を通じ、業界サイクルやファンダメンタルズの変化を迅速に捉えることを強みとする。また、幅広い業界ネットワークと企業との強固なリレーションを構築している。2020年には新浪財経「Golden Kylin Awards」の再生可能エネルギー部門におけるライジングスターアナリストで第4位、2021年には第15回「Crystal Ball Awards」の公益事業部門で第3位に選出された。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
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