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2026.10.14 NEW

先進国も新興国も防衛費増の流れ 長期金利が上昇しやすい国の傾向は? 野村CIO・髙宮康平

先進国も新興国も防衛費増の流れ 長期金利が上昇しやすい国の傾向は? 野村CIO・髙宮康平のイメージ

撮影/北原裕司(人物)

近年、世界各国で防衛費を増額する再軍備の動きが目立っています。先進国、新興国の財政運営と債券投資にどのような影響を及ぼすのでしょうか。野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティングCIOマネジメント部(野村CIO)ストラテジストの髙宮康平が解説します。

先進国も新興国も防衛費増の流れ 長期金利が上昇しやすい国の傾向は? 野村CIO・髙宮康平のイメージ

防衛費上振れによる金利反応を財政状況から分析

高市政権が防衛費GDP(国内総生産)比率を2%から3.5%へ引き上げる案が報じられるなど、防衛費に関連した話題を目にする機会が増えているように感じます。この情勢は続くのでしょうか。

防衛費を増額する再軍備の動きは、日本だけでなく世界的な潮流となっています。欧米の軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)加盟国は、冷戦後の軍縮方針を転換し、2035年までにGDP比3.5%を中核的な防衛支出に充てる計画を掲げています。

背景には、ロシアによるクリミア併合やウクライナ紛争などを受けた安全保障環境の変化があります。また、米国が同盟国に対し、自国の防衛により大きな役割を担うよう求めていることも一因です。アジアや中東でも地政学的な緊張が高まっており、再軍備の動きは中長期的に続くテーマとしてみていく必要があるだろうと考えています。

防衛費の増加を税収だけで賄えなければ、財政赤字が拡大します。その状態が続けば政府債務が積み上がり、国債発行の増加を通じて債券の需給に影響します。つまり、債券が売られ、価格が下落し、長期金利が高止まりしやすくなると考えられます。そのため、再軍備は防衛や安全保障だけの問題ではなく、各国の財政運営や債券市場にも関わるテーマです。

どのような国で特に防衛費増の影響が顕著になりますか。

防衛費の増加が長期金利に与える影響は、国によって異なります。財政に余裕のある国と、すでに大きな赤字や債務を抱えている国では、追加的な防衛負担を吸収する能力が異なるためです。

実際に主要25ヶ国の1994年以降の年次データを用いて、防衛費のGDP比率が標準的な水準から上振れした際の長期金利の反応を分析すると、防衛費が上振れする前の財政状況が相対的に良好な国の方が、中期的な金利上昇幅は小さくなりました。

防衛費上振れによる長期金利反応の差(財政が良好な国-それ以外の国)

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(注)防衛費GDP比が、ある年に標準的水準から1σ(0.12%ポイント)上振れした際の長期金利上昇を確認。標準的な防衛費GDP比を前年の①財政②GDP成長③地政学リスク関連指標などで推計、推計結果と実績の乖離を上振れ・下振れとした。財政が良好な国は政府債務・財政赤字で判定。網掛けは95%信頼区間。長期金利反応は固定効果パネルLP法という手法で推計。
(出所)ストックホルム国際平和研究所、IMF(国際通貨基金)、FRB(連邦準備制度理事会)よりNFRC作成

長期金利は財政状況だけでなく潜在成長率や予想インフレ率、金融政策などにも左右されますが、防衛費増加が長期金利に与える影響は財政余力の「出発点」によって変わり得るといえるでしょう。

主要先進国で異なる防衛費の吸収余力

では、現状、各国の財政状況はどうなっているのでしょうか。

防衛費の増額を進めるNATOに加盟する先進国の中で見ると、財政状況はまちまちです。下の図表は主なNATO加盟先進国について、政府債務残高と財政収支を比較したものです。各国の位置は大きくばらついており、同じNATOの防衛費目標の下で増額を進める国であっても、追加的な財政負担を吸収する余力には大きな違いがあることが分かります。

主なNATO加盟先進国の財政状況

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(注)入手可能な最新データを使用(2024年もしくは2025年)。
(出所)NATO、世界銀行、IMFよりNFRC作成

例えば、ドイツのように政府債務が比較的少なく、財政収支も良好な国では、同じ規模の防衛費増加であっても、金利への影響は、財政余力の乏しい国と比べて相対的に抑えられる可能性があります。一方、英国やフランスなど、財政状況が相対的に厳しい国では、防衛費の増額が金利上昇につながりやすい可能性があります。米国については、財政収支はNATOに加盟する他の先進国と比べると悪い状況にありますが、防衛費はすでにGDP比3.3%程度に達しているため、NATOの計画(GDP比3.5%)を達成するために大きく増やさなければならない状況ではありません。

NATO加盟国ではありませんが、日本についても、参考として記載しています。日本は政府債務のGDP比率こそ高いものの、G7の中で財政赤字は最も小さい水準にあります。インフレを背景とした名目GDPが拡大しており、その結果、税収も増えていることが財政収支にとってプラス要因となっていると考えられます。

新興国では海外資金の流出耐性も重要に

ここまで先進国の財政状況について見てきましたが、新興国についてもばらつきがみられるのでしょうか。財政状況以外にも見るべきポイントはありますか。

新興国の場合、財政状況に加えて、海外資金が流出した場合にどの程度耐えられるかにも注目する必要があります。新興国は先進国に比べ、海外資金に依存する傾向が強いためです。

防衛費の観点では、新興国の中には防衛装備の調達を輸入に頼る国も多くあります。その場合、防衛費を増やすと輸入が増え、外貨準備、つまり政府が保有する外貨建て資産が減少し、対外債務が増加する可能性があります。その結果、政府の債務返済能力への懸念から投資資金が流出し、通貨安やソブリン・スプレッド(国の信用リスクなどに応じて上乗せされる金利)上昇につながる可能性があります。ソブリン・スプレッドの上昇は、債券価格の下落要因となります。

ソブリン・スプレッドの上昇度合いは、外貨準備の厚さや対外債務の大きさ、つまり資金流出への耐性に左右される傾向があります。IMF(国際通貨基金)も、資金流出への耐性を示す指標である「ARA比率」が低いほど、資金流出時に信用リスクが高まりやすいと指摘しています。

では、各国の状況を具体的に見てみましょう。米ドル建て債を発行する主要新興国を財政収支と資金流出耐性で比較したのが、下の図表です。財政赤字が大きくても資金流出への耐性が高い国がある一方、財政状況が安定していても資金流出に弱い国もあります。赤色のNATO加盟国でも、まちまちです。このため、再軍備によるスプレッドの上昇リスクは財政赤字だけでなく資金流出耐性も含めて評価すべきでしょう。

主要新興国の財政収支と資金流出耐性

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(注)ARA比率はIMFが重視する指標で、100%未満だと資金流出への耐性が低いとされる。EMBI GDで2026年6月末時点で1%以上のシェアを占めデータ入手可能な24ヶ国。入手可能な最新データを使用(2024年もしくは2025年)。
(出所)世界銀行、IMF、インド準備銀行よりNFRC作成

債券投資で分散効果を高められる組み合わせは

足元では、インフレや財政悪化などを背景に、日米欧の長期金利は上昇傾向にあります。加えて、再軍備が中長期的な金利上昇圧力になるのであれば、金利上昇で価格が下落する債券への投資は控える局面にあるのでしょうか。

もちろん金利上昇で国債の価格が下落するリスクには注意が必要ですが、長期分散投資という観点では一律に控える必要はないと考えています。特に国債は景気後退などの株式下落局面において上昇する傾向があり、将来の景気悪化への備えとして有力な選択肢になります。また、高金利環境では高い水準にある利息を継続的に再投資することで、複利効果による収益の積み上がりという投資妙味も期待できます。

株式や債券といった資産クラスの分散に加えて重要なのは、債券の中でも投資先の国を分散することです。

株式と債券は一般的に異なる値動きをすると言われていますが、下の表は4つの資産クラスの相関関係をまとめたものです。先進国株式と先進国国債、新興国株式と先進国国債、先進国国債と新興国債券の相関は低い傾向にあることが分かります。相関は将来の市場環境によって変化する可能性があるものの、資産クラスを組み合わせることで、ポートフォリオ全体の値動きを抑制する効果が相応に期待できます。

資産クラス同士の相関行列

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(注)先進国国債は日本除く指数、為替ヘッジあり、新興国債券は米ドル建ての指数データを使用。相関係数の計測期間は7年間で、2026年2月時点までのデータで算出。
(出所)MSCI、FTSE、JPモルガンよりNFRC作成

例えば、米国株や日本株など先進国株式に投資先が偏っている人は、相関の低い先進国国債をポートフォリオに組み入れると良いでしょう。すでに先進国国債に投資していてさらに分散効果を高めたい方は、ミドルリスク・ミドルリターンの新興国債券も候補になるでしょう。個別の国の債券を一つ一つ選ぶことが難しい場合には、代表的な債券指数に連動する投資信託などに投資することで、比較的簡単に複数の国の債券に分散投資ができます。

再軍備は中長期的なテーマであり、防衛費の増加が複数年にわたって続けば、各国の財政状況や資金調達環境の違いが、国債利回りや債券スプレッドにより明確に表れる可能性があります。異なる資産クラスに投資することに加え、それぞれの資産クラスの中でも投資先の国や地域を分散することが、ポートフォリオの安定性を高めることにつながると考えています。

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野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング CIOマネジメント部ストラテジスト
髙宮 康平
2013年に東京大学経済学部経済学科を卒業後、商工組合中央金庫に入庫。日本経済研究センターへの出向を経て調査部にてマクロ経済調査に携わり、景気動向の分析に関する知見を培う。2020年にアフラック生命保険へ転じ、市場関連部門のエコノミストとしてマクロ経済・金融市場分析およびストレスシナリオの策定に従事。2025年10月より、野村證券の資産運用アドバイザリー・サービスを提供する野村CIOに所属。野村グループにおいてマルチアセット領域を対象とするストラテジストとして、グローバル経済・金融市場のリサーチを担う。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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