2026.11.06 NEW
リファンド方式とは? 「モノ消費」を中心にインバウンドを下押しするリスクに警戒 野村證券・伊藤勇輝
写真/タナカヨシトモ(人物)
2026年11月1日から、訪日客向けに新たな免税店(輸出物品販売場)制度が始まりました。これまで訪日旅行者は税抜価格で商品を購入できましたが、一度、税込価格で支払った後に出国時に返金手続きが必要となる「リファンド方式」に変更されました。新制度への移行に伴うインバウンド消費への影響について、野村證券経済調査部の伊藤勇輝エコノミストが解説します。
リファンド方式のポイントと注意点
11月1日から、免税店(輸出物品販売場)制度が改定され、従来の購入時免税方式から「リファンド方式」へ移行しました。従来の購入時免税方式では、旅行者は税抜価格で商品を購入できました。リファンド方式では、旅行者が免税対象物品を日本国外へ持ち出したことについて、空港の税関カウンターや専用端末(キオスク端末)などで確認を受けて初めて、消費税相当額が返金されます。
| 免税制度 | 免税までの流れ |
|---|---|
| 購入時免税方式(改定前) | 免税店にて旅行者が旅券を提示することで、税抜価格で商品を購入。 |
| リファンド方式(改定後) | ①免税店にて旅行者が旅券を提示し、税込価格で商品を購入。返金方法を登録する必要もある。 |
| ②商品の購入日から90日以内に、税関(保安検査前)で商品の国外への持ち出しを確認。 | |
| ③税関の免税手続きが完了した後に、免税店又は委託を受けた返金事業者から消費税相当額の返金を受けられる。 |
| リファンド方式の注意点 | |
|---|---|
| 免税品は、出国時にその全てを自ら所持することができる数量に限られる。 | |
| 飲食料品や化粧品などの消耗品を日本国内で消費した場合には、免税手続を受けることができない。 | |
| 税関確認は、1回の購入記録情報単位(レシート毎)に実施される。単位ごとに、1つでも購入商品を所持していない場合は、同単位に含まれる全ての商品の免税を受けることができなくなる。 | |
| 航空会社へ手荷物預けをした後は、免税手続きを受けることができない。免税手続を理由に、航空会社等へ一度預けた手荷物を引き戻すこともできない。 | |
| 搭乗手続に間に合わないことを理由に税関確認を中断した場合は、税関確認を受けたことにならない。 | |
| 税抜価格で100万円を超える高額商品については、購入記録情報を登録する必要がある。情報に不足が生じた場合、免税要件を満たさないと判断される可能性もある。 |
(注)赤字は野村證券経済調査部による。
(出所)国税庁、観光庁資料より野村證券経済調査部作成
購入時免税方式のもとで税抜価格で購入された商品が不正に転売されるケースが散見されたことを受け、リファンド方式への移行が決まったとみられます。しかし、旅行者にとっては消費税額分だけ追加的な支出を伴い、日本国内で買い物をすることへの心理的なハードルが高まりやすくなります。
加えて、旅行者が消費税額分の払い戻しを受けるまでには、いくつかのプロセスをたどる必要があります。例えば、1回の購入記録情報単位(レシートなど)に含まれる購入商品のうち、1つでも所持していない商品が見つかれば、同単位に含まれる全ての商品に免税を適用できなくなります。そのため、旅行者には、日本国内で消費する商品と自国へ持ち帰る商品で会計を分ける必要があるなど、追加的な手間が生じます。このほか、旅行者が出国する際には、空港などで免税還付の手続きが必要になるため、一定の時間も費やすことになります。
リファンド方式に変わると、旅行者数は減るのか
こうしたリファンド方式の制度概要を踏まえると、訪日客数と単価(1人当たり旅行支出額)の双方から、インバウンド消費額全体に負荷が加わる可能性があります。
まず、海外の免税制度の状況を整理しながら、訪日客数への影響を見ていきましょう。海外居住者が旅行先を選ぶ上で、リファンド方式を採用する日本の免税制度が、今後ボトルネック(障壁)になってくる可能性も排除できません。目的地ベースで旅行者数が多い国の免税制度を参照すると、フランスやスペイン、イタリア、ドイツなどではリファンド方式が採用されています。このほか、米国では連邦レベルで免税制度が導入されていないほか、英国では2020年12月31日にVAT(付加価値税)還付制度が廃止されました。
(注)UN Tourismが公表する“Total visitors”の計数を参照しています。フランスと米国は2021年、トルコとギリシャは2022年、スペインとイタリア、メキシコ、英国、ドイツ、日本は2024年の実績です。
(出所)UN Tourism資料より野村證券経済調査部作成
| 国 | 免税制度の概要 |
|---|---|
| 日本 | 26年11月に、購入時免税方式からリファンド方式へ移行。1回あたりの最低購入金額(5,000円)は変更なし。 |
| 米国 | 連邦レベルで、旅行者向けの免税制度は無し。ただし一部の州では例外の措置あり。 |
| 英国 | 20年12月に免税制度(VAT還付)が廃止。 |
| フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、トルコ、ギリシャ、タイなど | リファンド方式を採用。1回あたりの最低購入金額に条件あり。 |
(出所)各国税関資料より野村證券経済調査部作成
これらの国々と比較した場合、日本がこれまで採用してきた購入時免税方式は、手続きが簡易であることから、モノ消費を目的とする旅行者にとって、日本を行き先に選ぶ制度的な誘因になっていた可能性があります。しかし、日本の免税制度が欧州諸国と同じリファンド方式に移行することで、モノ消費を目的とする訪日需要が継続的に下押し圧力を受けるリスクから目が離せません。
インバウンド消費、制度変更前の駆け込み需要による反動に警戒
リファンド方式に移行すると、もう1つのポイントに挙げたインバウンド消費における単価には、どう影響が出てくるでしょうか。観光庁『インバウンド消費動向調査』を用いて、直近の動きを振り返ってみましょう。2026年7-9月期は、「娯楽等サービス費」が減少した一方、「買物代」や「飲食費」が増加しました。とりわけ2026年4-6月期以降、訪日客が買物代を増やす動きが目立ちました。
(注)季節調整は野村證券経済調査部による。
(出所)観光庁資料より野村證券経済調査部作成
買物代の中身を見ると、「衣類」や「靴・かばん・革製品」、「化粧品・香水」を中心に支出額が増えたほか、これらの品目について免税手続きを実施した旅行者の割合も2026年7-9月期にかけて上昇しました。
(出所)観光庁資料より野村證券経済調査部作成
(注)品目ごとに、2026年4-6月期から7-9月期にかけての前年同期比寄与度の前期差を算出し、ランク付けを行いました。寄与度の単位は%ポイント。
(出所)観光庁資料より野村證券経済調査部作成
リファンド方式へ移行した後の手続きの煩雑さを回避するため、2026年7-9月期にかけて訪日客による買物代が駆け込み的に増えた可能性があります。そのため、リファンド方式への移行後に買物代が反動的に減少し、インバウンド消費全体を一時的に下押しするリスクが警戒されます。
- 野村證券経済調査部 エコノミスト
伊藤 勇輝 - 2020年早稲田大学政治経済学部卒業後、野村證券入社。経済調査部へ配属後、一貫して日本経済の分析・見通し作成に従事。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。
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